かこさとしさんの訃報に接して、これほど子どもの心を鷲掴みにできる作品を描く人がいなくなってしまったことに、残念な気持ちでいっぱいです。
■『からすのパンやさん』から、多くの人たちの声にこたえて続編へ
私が幼い頃に読んだ『からすのパンやさん』は、いま子どもたちへと読み継がれています。初版(第1版)だけで、380刷という驚異的な数字が刻まれています。それだけ多くの人が一度は接したことのある作品です。
さらに2013年には、『からすのパンやさん』の続編となる4冊(おかしやさん、やおやさん、てんぷらやさん、そばやさん)が刊行されました。4羽の子どもたちが大きくなったストーリー。
続編が出ると知った私は、童心にかえり、その日が来るのを心待ちにしていました。
最初の続編となる『からすのおかしやさん』の「あとがき」に、かこさんは次のように綴っています。
前作『からすのパンやさん』をお目にかけたのは一九七三(昭和四十八)年のことでした。それから現在まで、多くの方々に読んでいただき、あつく御礼申し上げます。
なかには、「私が小さい時に読んだのを、孫が見ています」という、三代も読んだくださっている方から、お手紙をいただくことがあります。そうした方から、きまって、続きをかけと、たびたび催促をいただいてきました。その申し出にこたえるのと、だいぶん時間がったので四羽の子どもが大きくなってからのようすを、かくことにしました。この本はいちばん上の兄さんのお話です。「おいしい本」にしたいと思ったのですが、お口に合いましたでしょうか?
続きを描いてほしいと願う人たちの申し出に応えるかたちで、80代後半のかこさんが描いたストーリーをとてもおいしく読みました。
■『どろぼうがっこう』──表面上のきらびやかなケバケバした豪華さにひかれるのではなく、もりこまれた内容の高いおもしろさを求めている
私の好きな作品の一つに『どろぼうがっこう』という作品があります。
くまさかとらえもん先生と生徒たちがくり出す小気味好いやりとりと、「♫ぬきあし さしあし しのびあし どろぼうがっこうのえんそくだ それ!」という一度読むと二度と忘れないこのフレーズが印象的な作品です。
この作品の「あとがき」に、かこさんは次のように綴っています。
いま、手元に残っているこの作品の原作は、十三年前(注──1973年当時)に、他に紙がなかったわけではないのに、私の論文の下書きの裏に、黒と黄の二色で乱暴に走り書きした紙芝居でした。当時のわたしは、「子どもたちに与えるものは、子どもたちだから最高ですぐれた水準のものであるべきだ」という主張をいただいていました。しかし、極度に時間のない毎日を送っていた上、ちょうど学位審査があったので、一種の「笑劇(ファース)」としてまとめたこの作品を、こんな乱暴な絵によって子どもたちに見せることになったことを、残念に思っていたのです。
ところが、わたしのこんなおそれを裏切って、子ども会でみせた最初から、この紙芝居は圧倒的に子どもたちに迎えられました。単色に近い彩色の、しかもデッサンも構図もいいかげんなこの紙芝居を、何かことあるごとに子どもたちは〝みせて〟とねだり〝演じろ〟とせまりました。
何度となく、そのアンコールにこたえながら、わたしはかれらが表面上のきらびやかなケバケバした豪華さにひかれるのではなく、もりこまれた内容の高いおもしろさを求めているのだということを、子どもたちに教えられたのです。
その当時の子どもたちに教えられたことを思い出し、当時の後悔をくり返さないように注意しながらまとめてみたのが、この『どろぼうがっこう』です。十三年たった当時の子どもたちや、十三年後の今の子どもたちが、どうこの本を迎えてくれるでしょうか。
わたしのおそれと恥ずかしさは、まだまだつきないようです。
子どもから学ぶという姿勢も、「おそれと恥ずかしさ」と向き合いながら作品を描き続ける立ち振る舞いも、本当にかこさんの人柄を表しています。そして。作品へのこだわりを感じます。
「かこさん、今でも、『どろぼうがっこう』は、うちの子どもたちには圧倒的に迎えられていますよ」
■『ねずみのしょうぼうたい』──生き方を問う作品
さらに、最初の写真で一つだけ色の違う本『ねずみのしょうぼうたい』です。この本は、私の実家から母が持ち込んだもので、発行年をみると1985年3月と私の生まれた1ヶ月後です。
この作品は、いわゆる消防自動車がメインの作品とは一風違います。
ナガヒゲたいちょう率いるねずみのしょうぼうたいが、様々な火事に立ち向かい、火事の原因を究明するだけでなく説教をして二度とこんなことは起こさないようにというやりとりが丁寧に描かれています。
この作品の「あとがき」も興味深く、かこさんの作品に対する思いが伝わってきます。一部だけ紹介します。
火を使うことが上手になるということは、単にキャンプの炊事当番がうまくなるためではなく、目的に適した巧みな技術と、自分の行動を律し、節度を持った思慮を持つようになる生き方につながると思います。
「なるほど、そうか」と。かこさんの作品は、どれも生き方が描かれているのだとこの「あとがき」から強く感じました。
ここでは書きつくせぬ思いがありますが、改めてかこさんの作品を子どもたちに読みながら学び直すことが多いと感じています。
かこさんありがとうございました。もうすぐ、我が家には4人目の子どもが誕生する予定です。
からすのパンやさんの4羽のきょうだいのように、ありのままを認め合い、色々と助け合いながら、切磋琢磨しながら、他者への深い信頼を持って生きていくことができたらいいなと思っています。
安らかにお眠りください。作品は必ず読み伝えていきます。
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