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ソムリエ 20年、イタリアワインのテイスティングノートと、なぜか突然のイタリア映画評論、日本酒、日本茶、突然アートも

イタリア映画の紹介 L'ordine delle cose ものの秩序 di Andrea Segre

2017-10-07 23:35:48 | 何故か突然イタリア映画
L’ordine delle cose ものの秩序
監督 アンドレア・セグレ

違う角度から難民問題を扱った映画




この映画を見た人は、みんな「海は燃えているFuocoammare(海の炎)」を思い出しただろう。
ジャンフランコ・ロージ監督の、2016年作、移民問題を扱ったドキュメンタリー(風)映画。
アカデミー賞外国語映画賞、他、いくつもの賞を受賞し、日本でも上映された。

イタリアは、シチリアの南の海に浮かぶランペドゥーザ島は、イタリアよりアフリカに近い。だから、実に多くの難民が、この島を足がかりにするために目指して、海を越えてくる。もちろん命を落とす難民は絶えない。小さな船で出航し、海に翻弄され救助される難民も、一番近いこのランペドゥーザ島に収容される。

イタリアの難民問題を、決してオーバーでなく、静かに描いた「海は燃えている」は、衝撃的な作品だった。
上映前(ゴールデングローブ候補作のプライベートな上映)、イタリア沿岸警備隊の人が来て、警備隊制作の短いドキュメンタリーフィルムを上映、現況について説明があったのも貴重な経験だった。

この「海は燃えている」が、ある面から見た難民問題を描いているとすれば、「ものの秩序」は、真反対から見た、といっても良いと思う。



リナルディは、内務省のかなり上級の役人。(素晴らしく大きな家に住んでいる)
リビアからイタリアの難民の上陸を減らすよう、非常に難しい課題を仰せつかり、モロッコに出向き、収容所を見学する。
そこで、ある女性からミクロチップを渡され、ローマにる叔母に渡して欲しい、と。女性は北欧にいる夫の元に行きたいと願っている。
個人的にその女性を救いたいと思ったリナルディだが、最後は断念。
ものの秩序に押しつぶされた、というより、ものの秩序を壊すことを断念した、と取れたが、最後にうっすら浮かべる涙が印象的。

「海は燃えている」だけを見ていると、貧しい人だけが命をかけて外国を目指すような錯覚を起こすが、実は違うということがわかる。
学のある人、ある程度お金のある人も目指す。
また、自主的に希望するだけでなく、その意志のない人は強制もされる。移民を送り出す産業で儲けている組織があるからである。
移民が救助され、送還されても問題ない。再びお金を払って外国を目指す(または目指すように強制する)ので、さらに儲かるからである。

難民問題がいかに複雑で、簡単に解決などしない、希望の薄いものかが見えて来る。

難民問題の本質は、ヨーロッパに住んでいても理解できないほど難しいものだが、日本にいては表面しか見えないだろう。

だから、多くの日本人には退屈な映画と映るような気がする。
しかし、難民問題に興味のある人にはぜひ見て欲しい。
今年のベネチア映画祭でも話題。

なお、映画に出てくる収容所はシチリアの工場跡を使用、その他の場所も全てイタリアで撮影、トリポリとして映る光景はチュニジアだそう。




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