8の殺人 我孫子武丸
1989年作品
上空から見ると数字の「8」に見える奇妙な館。
建設会社の社長の気まぐれで建てられたこの館で
社長の跡継ぎである息子が渡り廊下ごしにボウガンで射殺された。
目撃者の証言では不可能犯罪としか思えなかったが
警部補の速水恭三はわずかな違和感に対して追求を開始する。
なんとなく新本格の推理小説を読みたくなって
古本屋で手に取った。
"かまいたちの夜"のリメイクもくるし
我孫子武丸再評価の流れ!! たぶん!!
事件自体はシリアスとはいえ、
主人公の恭三は割と間の抜けた刑事だし
部下の木下はひたすら悲惨な目に遭うキャラだし
妹のいちおは頭が軽い感じの女子大生だし
古臭いコメディドラマ調は今読むと結構きついw
序盤は館の住人への聞き込みで進行するものの
「刑事の勘」でことごとく相手の嘘を見抜いて
追い込みをかけるのがオカルトじみていて
なんだか好きになれない。
関係者を集めての解明シーンは
ほとんどが古典密室トリックの講義に費やして
肝心の事件のトリックの説明は非常にあっさり。
うん、読者サービスの意味を履き違えてるね!!
犯罪トリックのためだけに用意された特殊な舞台装置を用いて
読者へ挑戦状を叩きつけるのは
まさに新本格時代の若手作家の特徴。
様々に散りばめられたヒントをかき集めて
カッチリ解答を導き出す爽快感がたまらない。
しかし、逆に言ってしまうとトリック以外の部分で
なかなか引き込まれる部分が見つからない。
文庫を一冊読んだのに、そこに一貫したシナリオや犯罪のロマンが
まるで含まれていないのが残念すぎる。
長編デビュー作ということで
最初から完成度の高いものを求めるのは酷だし
その後の我孫子武丸の躍進を考えれば
基盤としてとても大切な作品。
新本格ミステリを読みたいという目的は十分に達成できた。
そして、巻末にある島田荘司の解説は非常に価値があった。
新本格ムーブメントの興りから
後の推理小説を担う若手へのエールと、
彼らの作品の未熟さに対する批判へのエクスキューズ等、
当時のミステリ界隈を知るにあたって色々と興味深い。
古本屋で本を買う意義はこういうところにあるよね!!
文章 ★★
プロット ★☆
トリック ★★★☆
(★5個で満点)