~あらすじ~
詩で財を成した寒川しずおの妻・スオミが誘拐された。
寒川の屋敷に集うかつてのスオミの夫たち。
しかし、それぞれが語るスオミのイメージが噛み合わない。
『器用で料理が上手い』『不器用で料理が苦手』
『淑やかな大和撫子』『極度のツンデレ』『中国語しか話せない』
スオミとは一体何者なのか。
予告編を見た限りだと『キサラギ』っぽいなぁ
……なんて思っていたのだけれど、実際に観たら思った以上に『キサラギ』だったw
凋落著しいフジテレビが、いま一度の栄光を求めて最終兵器である三谷幸喜に
「『キサラギ』みたいな映画を作ってくれ」と頭を下げたのだろうなぁ。
でも予告編で「三谷幸喜最高傑作」と勝手に銘打たれては
本人もさぞかし迷惑に違いない……。
映画のほとんどが寒川の屋敷での会話劇。
もともと舞台の人間である三谷幸喜にはお手の物。
流れるような会話のテンポは気持ちいいし、
会話の最中にも一人ひとりの動きを細かく指定する演劇的な演出も面白い。
ただ、キャスティングが三谷幸喜にしてはあまりにも迂闊じゃなかろうか。
一応の主役である西島秀俊演じる刑事の夫にイケおじ要素を集中させたせいで
延々と冴えないおっさん達の討論会を眺めさせられる映画になってしまってる。
一人の女性に関する話し合いなのだから、もっと映える役者で揃えたほうが
映画としては面白くなったんじゃなかろうか。
三谷にキャスティング権があったのかどうかは知らんけど。
唯一気に入ったのがスオミの2番目の夫であるYoutuberの松坂桃李。
自分にとっては松坂桃李はいまだにシンケンレッドなのだけれど
俳優としてきっちり地位を確立してるのは嬉しい。
髪を緑に染めてのヒカルっぽい立ち振る舞いが板についてるのが面白かった。
謎の女スオミを演じる長澤まさみはさすがの演技力。
回想シーンでアラフォー女優に女子中学生を演じさせる無茶振りも面白かったし
峰不二子ばりに色々な立場に順応する変身能力は純粋に笑ってしまった。
ただ、長澤まさみありきの役柄だったのは理解できるのだけれど
もっと面白く演じられる女優がいたかもしれない気がするんだよな。
終盤で五人の夫たちを前にしての大立ち回りは普通に寒かった……。
スオミが何者なのか、という命題にもとづいてのストーリーなので、
そこを予想しながら自然と作中に引き込まれるべきところ、
ミステリのように終盤で一気に明かすのではなく
チョロチョロと垂れ流すように明かされるので肝心の謎が楽しめない。
非常に多くの伏線が実に細かく練られているが、
結局大きなサプライズを作れないまま終わってしまった。
作りたかったものは伝わるのだけれど、どうにも痛快さと爽快感に乏しい。
パーツを組み合わせたらデコボコに出来上がってしまったプラモデルのような作品。
結局『キサラギ』は映画としての出来の良さも当然なのだけれど、
あの時代のあのタイミングに様々な偶然が重なって生まれた奇跡なわけで、
それを狙って作ろうとしても無理なんだよな。
三谷幸喜は悪くない。と思いたい。