阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

私たちを希望の国と思ってくれてありがとう!-シリア難民に対するドイツの驚くべき対応(2)

2015年09月22日 23時28分10秒 | 政治

 ラグビー・ワールドカップでの日本代表チームの素晴らしい闘い、そしてワールドカップで最高勝率を誇る南アフリカへのロスタイムでの劇的な逆転勝利には心底感動した。『ワールドカップ史上最高の試合』、『日本のスポーツ史における最大の番狂わせ』との形容に全く異存はない。

 外国人とどのように共存し、より魅力的な日本を作っていくか。それは、今後の日本社会における大きなテーマだ。勝利の立役者になった五郎丸歩選手はチームの外国人選手に対し「彼らは母国の代表より日本を選び日本のために戦っている最高の仲間だ。国籍は違うが日本を背負っている」と称え、彼らにもっと注目を!と訴えている。実は日本における外国人選手の草分けともいえるのが神戸製鋼、日本代表で大活躍したイアン・ウイリアムズ選手。オーストラリア代表ウイングとして、まさに世界最高レベルの選手が日本を選んでくれてラグビー界に与えたインパクトが、時代を超えて今回の快挙にもつながったのだと私は感じている。

伝説のウイング、イアン・ウィリアムズ氏とビルマへの経済協力を語る 
 
 先日書いた表題のテーマのブログには賛否両論、沢山のコメントを頂いた。注目度がそれほど高いわけではない私のブログに沢山のコメントを頂けること自体嬉しいことだが、私の真意が伝わっていないと思われるコメントも多かったので、少し補足したいと思う。

 まず私は難民対応について、今年だけで80万人のシリア難民を受け入れ半分を定住させるとしているドイツのやり方を日本がそのまま倣うべきとは思っていない。現時点での日本は、とてもその準備ができているとは言えない。しかし、近い将来、近隣諸国からの難民が大挙してやってくる可能性を危惧する。そのような事態を想定した備えが全くできていない今の状況は大問題だ。

 難民、移民を含め、外国人をどのように日本社会に受け入れていくのか、これは将来、日本があるべき姿を考える上での重く大きなテーマだ。

 少子高齢化、人口減少の中での労働力確保の手段として移民政策をどう考えるか。これは、日本は将来どんな国であるべきなのかという問題に直結する。経済大国であり続けること、地球社会の共通の課題を解決できる価値を提供できるリーダーになることは、どちらも重要な視点。一方、経済大国としての相応の責任からは逃れることはできない。様々なバランスを取りつつどこに力点を置くのか、英知が試されることになる。

 危機に瀕する欧州のリーダーを自任し、その責任を自分たちが背負うというドイツの覚悟、メルケル首相の決断を私はリスペクトする。移民政策は一歩踏み出せば後戻りができない。だからこそ、ドイツの決断を契機に国際社会の中でどのように信頼と尊敬を勝ち取るのかを考えましょうよ!というのが私の問題提起だ。

 難民が発生した国と国境を接している国と、その他の国では当然、切迫感、危機感は違う。あえて引き受けるべきかどうか、ドイツとしても当然躊躇はあったし、政治的計算もあっただろう。しかし、ヨーロッパの危機感がまさに最高潮に達した時、ナチス時代の経験を教訓として、戦争や政治的迫害に苦しむ市民に手を差し伸べる国家理念を示したこと、自分の国の事情よりも、戦火を逃れて欧州にやってくる人々の救援を優先させた姿勢は日本とは対極であり、英仏との差を世界に見せつけることにもなった。国家エゴよりも人道主義を重視する戦後のドイツ政府の基本方針を最も効果的に示したと思う。ベルリンの壁崩壊後、1700万人の東ドイツを吸収したことで長い間増税や経済不振に苦しめられたが、ドイツ社会を鍛えることにもなった。その経験を踏まえながら、今回、全く違う民族を受け入れる決断をしたメルケル首相が東ドイツ出身というのも興味深い。

 私の妹はドイツ人と結婚し、もう20年近くドイツに住んで大学で教えている。彼らの生活風景を通してドイツを知る機会も多い。そんな経験を土台に、3年前、与党(当時)の代表としてベルリンでの『日独フォーム』に派遣して頂いた。国家としての価値観を、環境や平和貢献をテーマに体現していくドイツ。メルケル首相を含むドイツの政治家や知識人、市民の代表と議論し、大戦を引き起こした国としての歴史を踏まえた明確な国家理念を強く感じた。

 ドイツの公共放送が9月3日に発表した世論調査では、ドイツ国民の88%が難民のための衣類の提供や募金に協力すると答え、ボランティアに協力するという回答も67%に上っている。メルケル首相の決断も、トップの独走ではなく、このような国民の意志があってのことだと思う。

 例えば北朝鮮や中国から難民が押し寄せた場合、ドイツとは違い、日本は隣国としての対応が求められることは間違いない。しかし、そのための準備も経験も、国民意識の高まりも何もない。今年は5000人の申請に対し難民認定は11人、シリア難民60人に対して僅か3人。難民受け入れと難民認定は同一ではないが、どちらにしても、国家としてこの問題に真正面から取り組んでいるとはとても思えない状況だ。北朝鮮や中国などから大量に難民が押し寄せ、人道上受け入れざるを得ない状況は、それらの国から攻撃される可能性よりも遙かに高いと私は考えている。そのための準備は、安保法制以上の危機感と戦略を持って行うべきだと私は思う。



私の事務所を訪ねてくれたイアン・ウィリアムズ氏と