阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

人間が殺しあう現場のリアリティーは国会にいてはわからないー国会議員と『現場』を考える

2022年05月13日 13時47分32秒 | 政治
小熊慎司衆議院議員が、GW中の視察でポーランドからウクライナに入ったことが批判の対象になっている。本人も認めているように手続き上の瑕疵もあったようで、この点は大いに反省すべきだ。しかし、国会議員が『現場』に行く姿勢そのものを一概に否定してしまうことは政治の劣化を生み出す要因になると私は思う。

2001年12月、首藤信彦衆議院議員の政策秘書だった私は『民主党ペシャワール事務所』の事務局長として現地に派遣されていた。民主党が街頭で集めた募金2,500万円をもっとも有効に使う方法は何か調査するのが私のミッション。ペシャワールを拠点に各地をまわり、アメリカによる対テロ戦争で犠牲になったアフガニスタン、そしてパキスタンの部族地域に住む人々、支援活動をする人々を訪ね、ヒアリングを続けた。

同時に、首藤信彦衆議院議員が提案した、街頭募金を通して支援する団体を決めるための会議の準備に奔走した。70を超える現地NGOから寄せられた提案書を読み、調査するのが私の役割だった。その上でこれはと思う団体に会場でプレゼンテーションをしてもらい、支援する団体を決定した。

現地ペシャワールでの会議には首藤議員のみならず鳩山代表も駆けつけ、政権交代を実現し、対テロ戦争で傷付いた人々、そして社会に寄り添い、サポートする決意を国際社会に向けて表明した。徹底して現地の弱い立場の人々に寄り添う外交、そして事実の探求は、政府同士の付き合いによって制約がある政権与党ではなく野党だからこそできることも沢山ある。その姿勢の象徴として紛争地域であるペシャワール、後にアフガニスタンのカブールに事務所を作る発想と本気は後に政権交代を生み出す力になったと思う。

ロシアの侵攻によって多くの人々が苦しむウクライナ。こんな時こそ政権交代を目指す野党第一党としての気概、そして戦略を行動で示し、人道支援、復興支援、平和構築につながる日本独自の平和貢献の在り方を現地で調査してはどうだろうか?

国会議員にとって『国会のルールに従う』責任は大きい。私自身も、衆議院議員時代は国会の制約によって何度も海外での視察や国際会議への出席を断念した。北朝鮮への制裁・渡航自粛によって国会からストップがかかり、現地入りを直前で断念した時は、代わりに中朝国境地域を中国側から調査した。ハンガリーでのGlobal Volunteer Conference2011ではメインスピーカーとしてスピーチすることが決まっていたにも関わらず、急遽本会議での採決が入り、わずか1分の起立採決のために出発の数時間前に断念し、オンラインでのスピーチに切り替えたこともある(写真)。国民の代表として国会で意見表明する国会議員の立場、責任はそれぐらい重いものだと思う。一方で、紛争地のリアリティー、人間が殺しあう現場のリアリティーは、国会にいてわかるはずがない。

私自身も、停戦が破られ、実質的に内戦状態に戻ったカンボジアで、同僚だった中田厚仁さんが殺され、自分自身が襲撃、銃撃、脅迫を受けて『人が殺しあう日常』に対する認識が変わった。ペシャワールでの活動を通し、軍事力によって支配し、占領統治するアメリカの戦略は必ず失敗すると確信し、20年後の撤退で現実となった。紛争地域のリアリティーを経験した人間として、日本の平和貢献の在り方について自分が国会で問題提起したいとの思いが生まれ、国会議員を志す直接的なきっかけにもなった。

私の記憶では、民間人が現場に入ることを政権が糾弾するようになったのは2004年、イラクでボランティア活動をしていた3名の人質事件がきっかけだ。与党議員の扇動で自己責任論が沸き起こり、すさまじいまでの人質バッシングが起きたが、その中心だったのが、当時、安倍晋三自民党幹事長だった。

自分は安全なところにいながら口だけ勇ましいことを言う議員がなんと多いことだろうか。そして現場に寄り添いたいと活動する民間人を有力政治家が糾弾するグロテスクな日本の現実。ましてや野党議員であるならどれぐらいバッシングを受けるかを考えると頭がくらくらするが、そんなことで怯むようでは国会議員は務まらないと思う。

確かに国会議員による単なる『視察』は邪魔になるだけだ。しかし、現地での明確な目的を持つこと、武装勢力に襲撃・監禁された時の対処方法、通信等の使い方、現地の人々のコミュニケーションの取り方などを学び、厳しい環境にも耐えられる体力を持っていることを前提として、国会議員を現地に送り出し、国会で紛争地の真実を報告させる。そして日本だからこそ可能な本当に求められる人道支援、そして平和貢献について議論する。国会による拘束のない元議員や秘書も連動して活動する。こんな発想、政治文化があってもいいはずだ。こんな時こそ野党第一党の矜持を見せてもらいたいと私は切に願っている。


アフガニスタンの難民キャンプでヒアリング


ペシャワールで鳩山由紀夫民主党代表(当時)と


ハンガリーでのGlobal Volunteer Conference2011でビデオスピーチを行う


豆満江から沿いに見える北朝鮮の人々の暮らし


同行した川崎栄子さんが、43年間の北朝鮮での生活の後に豆満江を渡り脱北した場所の近くで


中朝国境地域での調査をもとに外務委員会で岸田外務大臣(当時)に質問