阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

『敵基地攻撃能力』を行使しないウクライナの戦略

2022年05月19日 16時07分58秒 | 政治
 ナチスの拡大に大きく貢献したヘルマン・ゲーリングはこんな言葉を遺しています。

「国民は指導者たちの意のままになる。それは簡単なことで、自分たちが外国から攻撃されつつあると説明するだけでいい。平和主義者に対しては愛国心がなく、国家を危険にさらす人々だと批判すればいいだけのことだ。この方法はどこの国でも同じように通用する」

 敵基地攻撃能力や核共有、また防衛費の増大の必要性を過度に主張し、国民を恐怖で支配しようとするかのような政治家の言葉に、ヘルマン・ゲーリングの恐ろしい言葉を思い出すとともに、『自分の頭で考える』平和教育の必要性を痛感します。

 ウクライナはロシア国境近くのロシア軍の基地や都市に十分届く、Grom2などの戦術弾道ミサイルを持っていながら、ミサイルによる攻撃をしていません。また、米国などのNATO諸国も、約700キロ離れたモスクワの中枢に届くミサイルを供与していません。

 これは、ロシアとの過酷な戦争の中にありながら、専守防衛に徹し、ロシア国内への攻撃を厳しく自制しているからだと思います。そして、これこそが国際社会において多くの国がウクライナを支持している理由のひとつです。ウクライナは専守防衛に徹することを大きな戦略にしているのです。

 岸田文雄首相は衆院予算委員会(1月26日)で「ミサイル迎撃能力の向上だけでなく、敵基地攻撃能力を含めあらゆる選択肢を排除せず、現実的に検討していきたい」と強調しています。また、安倍晋三元総理は敵の中枢を攻撃することも含むべきだと主張しています。

 そもそもどの目標を攻撃するのか? 潜水艦や、地中、あるいは宇宙からの攻撃もあり得る中で、どのようにして相手の攻撃の意図を証明するのか、そのための十分な情報収集力、分析力はあるのか?民間人に当たって死傷させた場合、あるいは当たったと宣伝された場合はどうするのか?相手の中枢とはどこなのか?(中南海なのか、クレムリンなのか?)当然、首相官邸や国会、さらに原発も先制攻撃した場合に反撃を受けるターゲットになり得ます。先日、山口壮原子力担当大臣は、ミサイル攻撃に耐えられる原発は世界中にひとつもないと言っていましたが、備えはどうなっているのか?

 また、先制攻撃によって、ミサイルの撃ち合いになる、あるいは一方的に撃ち込まれる中で国民が徹底抗戦する備えができているのか?これがウクライナ戦争に見る現実です。その現実を受け入れる覚悟を国民に説明することなく抑止力を語る資格はないと、私は思います。

 戦争のリアリティーを知らない、知ろうともしない政治家の妄想によって国民の命が危険に晒されようとしていることに大きな危機感を覚えます。

 敵基地への攻撃、ましてや中枢への攻撃は、先制攻撃に限りなく近づく危険な政策であり、地域の軍事的緊張を高め、日本が攻撃される可能性をむしろ高めるものだと思います。ウクライナ情勢に乗じた前のめりの議論をする一方で、ウクライナの現実を見ていないことは大きな問題です。