阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

終戦記念日に戦争と和解について改めて考える-破産宣告したスリランカにどう向き合うか

2022年08月15日 17時23分31秒 | 政治
今日は終戦記念日。戦争と和解について改めて考えてみたいと思います。

私は戦争と和解をテーマに列国議員同盟(IPU)の一員として演説をしたことがあります。(2012年10月。カナダ・ケベック)この時は、故江田五月参議院議員や中林美恵子衆議院議員などとともに参加していました。

私は紛争国の民主的な選挙支援や、除隊した兵士の自立支援などに長く従事していました。スピーチでは、戦争中に行われた様々な行為について真実を明らかにすること、そして正当な裁きを行うこと、つまりキリスト教的な考えに基づく『正義の回復』が非常に重要であることは当然であるとともに、対象の国や文化によっては、新たな局面を生み出すためにはアジア的な『赦し』の思想を組み入れることにも検討価値があるのではないかとの問題提起です。これはもちろん、加害者の側の責任をあいまいにすることではありません。

スリランカ(当時はセイロン)のジャヤワルダネ元大統領(当時は大蔵大臣)は、1951年のサンフランシスコ講和会議において、「憎悪は憎悪によって消え去るものではなく、ただ慈愛によって消え去るものである(hatred ceases not by hatred, but by love)」という仏陀の言葉を引用し、対日賠償請求権を放棄しました。

「戦争は戦争として、終わった。もう過去のことである。我々は仏教徒である。やられたらやり返す、憎しみを憎しみで返すだけでは、いつまでたっても戦争は終わらない。憎しみで返せば、憎しみが日本側に生まれ、新たな憎しみの戦いになって戦争が起きる」

「戦争に対して憎しみとして返すのではなく、優しさ、慈愛で返せば平和になり、戦争が止んで、元の平和になる。戦争は過去の歴史である。もう憎しみは忘れて、慈愛で返していこう。」

 対日賠償請求権の放棄を明らかにするとともに、わが国を国際社会の一員として受け入れるよう訴える演説を行いました。

「日本に今、この段階で平和を与えるべきではない」「日本は南北に分割して統治すべき」など、さまざまな対日強硬論が中心であった中、この演説は多くのリーダーの心を動かしました。ドイツが東西に分割されたことなどを考えるとジャヤワルダナ大統領は私たち日本人にとっての恩人と言えるでしょう。

こんな歴史的事実も踏まえて紛争と和解についてスピーチをしたところ、スリランカからの議員団は立ち上がって大きな拍手をしてくれました。残念ながら多くの日本人が知らないこの事実を、私は教育の場でも教えるべきだと思っています。

2013年、スリランカ仏教において大きな役割を果たしたダルマパーラ師の生誕150周年記念式典に招かれ、アントニオ猪木参議院議員とともに参加しました。スリランカ最大のテレビ局(マハラジャ・グループ)の会長にスタジオに招いて頂いたので、このことをお話しし、スリランカの方々に日本人として改めてお礼を申し上げたいとお願いしたところ、会長の鶴の一声で私のメッセージが放送されることになりました。その日はちょうど中国の周近平主席がスリランカを訪問し首脳会談をした当日。現地のニュースはその話題でいっぱいでしたが、ゴールデンタイムのニュースの中で放送して頂き、冒頭のジャヤワルダナ大統領の言葉を引用して、アジア的価値観、仏教的価値観に基づいた紛争解決の新しい手法について提案することができました。

『赦し』を受け入れたからこそ、不断に真実の解明を行う責任、赦しによってさらに重くなる責任をどのように果たしていくか、そこに国家としての責任や誇りも問われると思います。一方、日本の侵略戦争によって被害を受けた国の国民がこの演説から何を感じたのか、どのように受け入れたのか、さらに研究したいと思います。決して綺麗ごとでは済まないと思うからです。

さて、このスリランカは対外債務が膨らみ、この7月5日に破産宣言をする事態になっています。大きな要因はラジャパクサ大統領一族による独裁政治です。大統領の出身地であるハンバントタ港の、インフラ整備に中国企業から借りた借金の返済が行き詰まり、担保にしていた南アジア最大の港であるハンバントタ港の運営権を中国企業に99年間引き渡さざるを得なくなるなど、中国の『債務の罠』の犠牲になったとの見方もあります。また、新型コロナウイルスにより観光業が打撃を受けたこと、外貨不足によりエネルギーや食糧の輸入が困難になり物価が高騰。また、停電が相次ぎ、物流の停滞が滞っていることも要因とされています。

こんな時こそ、ジャヤワルダナ大統領に受けた恩を返す時かもしれません。民主的な選挙の支援や、産業の育成とセットに借金返済の支援を行うなど日本にできることは何か、具体的な検討に入るよう、政府に要望したいと考えています。

*昨年8月15日の投稿にスリランカの現状への問題意識を加筆したものです。





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