引っ越しに伴う資料の整理をしていたら、『戦無派日本人のカンボジア』という単行本の中で、UNTACでの選挙支援活動(1992~3年)について私がインタビューされている記事を発見しました。その中で、今、渦中の舛添要一東京都知事とカンボジアで一緒に写った写真も載っていました。それ以前にテレビで見た評論家としての舛添氏の語り口や態度、私は好きではありませんでした。しかし、カンボジアでお話した後、現地で銃撃を受けて亡くなった中田厚仁さんを追悼する文集に宛てて綴ってくれた一文は、とても心を打つ素晴らしい文章でした。
東京都知事としての公費などの疑わしい使途についてはしっかり追及すべきと思いますし、決して舛添都知事を擁護するつもりもありません。しかし、この問題と同時期に明らかになり、世界を震撼させている『パナマ文書』は遥かに大きな問題であり、国内のメディア報道が舛添知事の問題に偏ることは明らかにバランスを欠いていると思います。
タックスヘイブンに集中している超富裕層の資産は、21兆ドル(2400兆円)と概算される天文学的な数字です。大金持ちが法の抜け道を使って税を逃れうるこの構造は、今の法律上違法ではなくても、本質的にはあまりにも不公正です。日本政府は現状を静観する方針との事で、菅官房長官は早々に調査はしないと声明を出しました。しかし、0.1%の富裕層の税逃れを放置し、99%の庶民に税を負担させる不公正な構造をそのままにしておくのは正義と言えるのでしょうか? アメリカ大統領選挙で民主党のサンダース候補が主張するように、ここにメスを入れることさえできれば、貧困層の医療をサポートしたり、公立の大学を無償化することなどたやすいことと思われます。
企業がタックス・ヘイブンの地に拠点を置くこと、それは違法ではありません。しかし、EU各国は「パナマ文書」で明らかになった自国の企業を脱税容疑で捜査を開始しました。一方、消費税を引き上げ法人税を引き下げる日本政府は沈黙を保っています。参議院選挙前に国民の怒りが爆発することを懸念してのこととすれば、明らかに道義的責任の放棄です。
2007年、消えた年金問題で大騒ぎになっていた頃、当時の安倍首相が「国民の不安を煽る結果になる」と調査を拒否したことを思い出します。
さて、今回パナマ文書を分析したのはワシントンに拠点を置く「ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)」です。この団体はUSAID(米国国際開発庁)やジョージ・ソロスの「オープン・ソサエティー」、また「フリーダム・ハウス」の支援を受けた団体です。私はこの3月にワシントンで講演をした際、フリーダムハウスを訪れました。グルジアやキルギス、ウクライナなどの民主化を実現したカラー革命への関与などについてヒアリングする機会がありましたが、『民主化支援』の最大の目的は米国の大企業の利権を守ること。そのために彼らがこれらの団体に巨額な寄付を行っていることもまた、民主化支援を巡る現実と実感しました。
今回、プーチン露大統領やキャメロン英首相、習近平中国国家主席などの名前がパナマ文書で公開され、アメリカの政治家や企業の名前が出ていないことは不思議です。高島康司氏は「パナマ文書で世界の富裕層を「脅迫」しはじめたアメリカの苦境」の中で、OECDが成立させた「共有報告基準」にアメリカは調印を拒否し、「外国口座税務コンプライアンス法」を楯にして、他の国々の金融機関に口座内容などの情報をすべて開示するように求める一方で、アメリカ国内の金融機関の情報は他の国に対して一切公表しなくてもいいようしていると書いています。つまりアメリカ国内に租税回避を目的とした秘密口座を持っていたとしても、これを他の政府に開示する義務はないのです。驚くほど公平性を欠くと言わざるを得ませんが、このようにして、中国やロシアのリーダーに打撃を与え、イギリス系のタックスヘイブンを潰し、アメリカ国内のタックスヘイブンに世界の超富裕層の資金を集中させて、米国経済を活性化するのが目的なのかもしれません。
この不平等な仕組み、日本が様々な不利な条項を飲まされた(したがって安倍政権は公開できない)TPPを巡る構造と共通するのを感じます。パナマ文書の問題についてはわからないことが多いのですが、本質的な構造の問題点については、今後も注視していきます。