博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2015年9月に読んだ本

2015年10月02日 | 読書メーター
カレーライスと日本人 (講談社学術文庫)カレーライスと日本人 (講談社学術文庫)感想
カレーの故郷インドからイギリス、明治日本を経て現在日本で食べられている「国民食」カレーが形成されるまでの過程を追う。インドの「カレー」あるいはインド人のイメージする「カレー」は地方により様々である一方、現代のインド人から見て日本式カレーは意外と違和感がないとか、日本でイギリスカレー粉の代名詞とされてきたC&Bは、実は19世紀当時からカレー粉が主力製品というわけではなかったとか、その旅の道のりは一筋縄ではいかない。カレーを通じて和食とは何か、日本の固有の文化とは何かといったことまで考えさせられる好著。
読了日:9月2日 著者:森枝卓士

新田一族の中世: 「武家の棟梁」への道 (歴史文化ライブラリー)新田一族の中世: 「武家の棟梁」への道 (歴史文化ライブラリー)感想
鎌倉時代には「清和源氏の嫡流」足利氏の一門として従属する立場にあった新田氏が「武家の棟梁」として見なされるようになるまでの「物語」を描く。足利尊氏が北条氏から離反する時に、新田義貞が鎌倉攻めの実質的な指揮者となったことと、やはり尊氏が建武政権から離反する時に、義貞を討伐の対象として名指ししたことが、義貞を尊氏のライバルの地位に引き上げ、ひいては新田氏が足利氏に対抗する「清和源氏の嫡流」と見なされるきっかけになったとする。新田氏という切り口から「歴史認識」の問題を考えさせられる好著。
読了日:9月3日 著者:田中大喜

高 師直: 室町新秩序の創造者 (歴史文化ライブラリー)高 師直: 室町新秩序の創造者 (歴史文化ライブラリー)感想
高師直の再評価を軸とする内容だが、個人的に興味深かったのは、師直死後も高氏一族を執事に据えようという発想があったこと、高氏の勢力挽回は結局成らなかったが、室町幕府や鎌倉公方の奉公衆として細々と存続したことなど、師直後の状況。師直に被せられることもある「悪党」という批判は、同時代にあっては他者による一種のレッテルにすぎないということだが、言ってみれば現代ネットの「ネトウヨ」「サヨク」認定みたいなものか。
読了日:9月6日 著者:亀田俊和

事変の夜: 満州国演義二 (新潮文庫)事変の夜: 満州国演義二 (新潮文庫)感想
中村太尉事件・万宝山事件を経て満州事変へ。外交官と関東軍憲兵隊将校として次第に対立していく太郎と三郎。川島芳子・石原莞爾・甘粕正彦といった当時の有名人が主人公敷島四兄弟に絡むようで絡んでこないという演出が心憎い。このあたりはこれらの人物が遠慮無く絡んでくる安彦良和の『虹色のトロツキー』と大きな違いか。
読了日:9月9日 著者:船戸与一

韓国とキリスト教 (中公新書)韓国とキリスト教 (中公新書)感想
韓国のキリスト教と言われて多くの日本人が思い浮かべる統一教会の話題はほとんどないが、朝鮮半島のキリスト教会の起源をめぐってきな臭そうな議論があることや、日本統治時代のカトリックとプロテスタントの日本への対応の違いによって、戦後に両派のイメージが変化したこと、韓国キリスト教の受容というか土着化の様子など、興味深い話題や論点が盛り込まれている。
読了日:9月11日 著者:浅見雅一

なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由(祥伝社新書)なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由(祥伝社新書)感想
著者は異なるが、安田峰俊『知中論』、山谷剛史『中国のインターネット史』の続編というか続報的な著作。上の政策に対して下の対策がリードしたかのように見えたネットの世界でも、結局お上の政策の方が上手だったという話でため息しか出ないが、日本も他国のことをとやかく言えた義理ではないかもしれない。
読了日:9月13日 著者:高口康太

冒頓単于―匈奴遊牧国家の創設者 (世界史リブレット人)冒頓単于―匈奴遊牧国家の創設者 (世界史リブレット人)感想
冒頓単于の生涯を追いつつ匈奴に関する基本事項も押さえており、このシリーズとしては理想的な構成。個人的には、終盤で言及されていた、匈奴が用いた文字未満の記号というのが気になるが…
読了日:9月14日 著者:沢田勲

弥生時代の歴史 (講談社現代新書)弥生時代の歴史 (講談社現代新書)感想
AMS炭素14年代測定法によって開始年代が500年以上さかのぼるとする新説が提唱された弥生時代。その年代観に沿って弥生時代の歴史を追っていこうというのが本書の主旨だが、面白かったのは、東北で一旦稲作を取り入れながら放棄した地域が存在するとか、縄文文化と弥生文化が排他的な関係にあるのではないかといった、それ以外の部分。
読了日:9月16日 著者:藤尾慎一郎

人間・始皇帝 (岩波新書)人間・始皇帝 (岩波新書)感想
近年公表の竹簡や発掘・調査、研究成果を盛り込み、新しい始皇帝及び秦帝国像を提示する。荊軻の目的は秦王の暗殺だったのかなど、伝世文献の関連記述に関しても新説が展開されている。
読了日:9月21日 著者:鶴間和幸

北京大学版 中国の文明 第3巻 文明の確立と変容<上>北京大学版 中国の文明 第3巻 文明の確立と変容<上>感想
鳴り物入りで登場したシリーズだが、専攻の学生や研究者向けの概説書であると感じた。もとの中国語版を大学院の講読のテキストにして、ツッコミを入れつつ訳注を作りながら読んでいくのが良さそう。
読了日:9月26日 著者:

孔子伝 (中公文庫)孔子伝 (中公文庫)感想
ウン年ぶりに再読。本書の読みどころは孔子と陽虎との対比だが、孔子や儒家の出現は当時の時代性によるものであり、孔子とその弟子たちは、当時斉魯各地に数多いた類似の人物や集団の代表格だったのではないかと思った。
読了日:9月26日 著者:白川静

三国志男 (幻冬舎文庫)三国志男 (幻冬舎文庫)感想
三国志関係の遺跡探訪本。『花関索伝』に登場する関索の妻鮑三娘の墓まできっちり作られているのに驚愕。関係の遺跡をわざわざ訪ねてくるのは日本人しかいないというあたり、日本人は世界一三国志が好きな民族なんだろう。著者が各遺跡を探訪したのは元本発行の2008年以前ということになるのだろうが、それから数年が経過し、変貌を遂げている遺跡も多いはず。是非とも再探篇を希望したいところ。
読了日:9月28日 著者:さくら剛

広岡浅子 明治日本を切り開いた女性実業家 (星海社新書)広岡浅子 明治日本を切り開いた女性実業家 (星海社新書)感想
今期朝ドラヒロインのモデル広岡浅子の生涯を、明治維新や当時の関西商業会といった時代背景の中に位置づける。浅子が実は妾腹であったこと、ドラマでは主要人物の浅子の姉が夭折していることなど、史実とドラマの違いはやはり大きいようだが、ドラマでは本書にあるような当時の時代背景をどう描くのかと楽しみは広がる。
読了日:9月30日 著者:小前亮
コメント
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