レイシズム (講談社学術文庫)の感想
人種と言語の混同、純粋な人種など存在せず、人種の定義も政治的に動かされてきたこと、人種の優劣を示すとされてきたことは実は社会状況のハンディキャップを示していたということなど、レイシズムの陥りやすい論点への反駁とレイシズムの歴史的展開を簡潔にまとめる。原著が書かれた80年前にアメリカやドイツを席巻していた「似非人類学」への反論は、現在の日本を席巻する「日本スゴイ」論や反中嫌韓論への反論としても生きそうである。
読了日:05月01日 著者:ルース・ベネディクト
奴隷のしつけ方 (ちくま文庫)の感想
古代ローマ人の書の翻訳という体裁の古代ローマ奴隷入門。奴隷というのは我々の想像からかけ離れたものではなく、今の日本の社会でも似たような人々は存在しそうである。ことによるとそれは自分自身であるかもしれないという気付きを与えてくれる。各章末の本来の著者による解説は奴隷制に否定的な論調である一方で、奴隷制に肯定的な名目上の著者マルクスの主張をすんなり受け入れそうになるのが怖い。
読了日:05月04日 著者:マルクス・シドニウス・ファルクス,ジェリー・トナー
五・一五事件-海軍青年将校たちの「昭和維新」 (中公新書 (2587))の感想
事件に関する著者の設定する「謎」をめぐって議論が展開される。事件を広く国家改造運動の一環として位置づけ、犬養毅襲撃は海軍将校たちの目的のひとつにすぎなかったこと、犬養死後の後任擁立をめぐる動きと当時の政党政治の評価、襲撃に関与した海軍将校たちに対して国民は同情的だったが、血盟団事件に関与した民間の右翼に対しては関心が薄かったこと、在郷軍人による政治団体の影響力に関する話などを面白く読んだ
読了日:05月07日 著者:小山 俊樹
論点・西洋史学の感想
西洋史の用語というよりは、「ブラック・アテナ論争」「大分岐」「世界システム論」「オリエンタリズムとポストコロニアリズム」など、学界に大きな影響を与えた主張や議論、思潮を中心に項目を立てている。大学のゼミなどでの討論、プレゼンテーション、レポート用の教科書という側面が強いが、西洋史学研究に関する読む辞典という使い方もできるだろう。
読了日:05月12日 著者:
俠の歴史 東洋編 上の感想
個々の人物伝としては面白いが、彼らの事績が「侠」として語られるべきものなのか?「義」や「忠」など他の徳目で説明すべきものではないのかと思う項目が多い。渡邉義浩の「関羽」の項目で、関羽の「侠」の精神を「利他の義」と位置づけているが、総論部でこのようなそもそも「侠」とは何かという議論をもっと丁寧にやるべきだったのではないかと思う。
読了日:05月15日 著者:鶴間 和幸
ルポ 技能実習生 (ちくま新書 1496)の感想
技能実習生について、現在最多を占めるベトナム人の事例を中心に、制度の概要や問題点を解説。技能実習生=奴隷に等しい存在というわけでもなく、実習生制度が大金を得られる出稼ぎ手段としてある程度成立していること、実習生の失踪の原因は基本的に低賃金の問題であり、失踪者が発生しやすいのは建設業や農業など業種がある程度固まっていることなど、その実態が日本で持たれている印象とはズレがあることを示している。韓国の雇用許可制との比較があるのも有用。
読了日:05月20日 著者:澤田 晃宏
中国人の機智 『世説新語』の世界 (講談社学術文庫)の感想
相手をやりこめるための高度な言語テクニックとしての「機智」を『世説新語』から読み取る。相手の論拠を逆手にとる、誰もが知ってる典故を織り込んで自分の主張を普遍的なものであるかのように見せかけるなどの基本テクニックは、TwitterなどのSNSでの論戦で活用できそうである。現代に生きておれば間違いなくSNS強者になったであろう毛沢東や魯迅との比較も、その意味では極めて的確である。原著刊行から40年近く経過し、新たな意義を獲得した書と言えよう。
読了日:05月23日 著者:井波律子
陸海の交錯 明朝の興亡 (シリーズ 中国の歴史)の感想
シリーズ全体の小結として、モンゴル帝国崩壊後に成立した諸帝国が柔構造の統治組織であったのに対し、社会の隅々まで統制を加える固い体制で出発した明朝の達成と矛盾を描く。その「固い体制」が中華世界システムを生み出し、それが朝鮮、ベトナム、そして我々日本といった周辺諸国の世界観をも規定することになる。明朝の歴史は我々日本人の歴史でもあり、日本国の抱える問題を振り返るうえでの起点となることを示唆してくれる書となっている。
読了日:05月25日 著者:檀上 寛
漢方医学 「同病異治」の哲学 (講談社学術文庫)の感想
漢方の基本的な考え方や、中医・韓方との違い、漢方の限界や問題点などがコンパクトにまとめられている。漢方医学と西洋医学とは二項対立的なものではなく、漢方では癌は治せないが抗癌剤の副作用を抑制する効果があるなど、共存・併用できるものしされている。また両者の共存・併用のあり方も日中韓で違いがあるようだ。感染症に関する話題もある。新型コロナウイルスに漢方がどのように対応できるかという話が紹介されるのはこれからだろうか。
読了日:05月27日 著者:渡辺 賢治
マックス・ウェーバー-近代と格闘した思想家 (中公新書)の感想
ウェーバーの思想と著書について、日本での受容も含めて彼の死後にどう読まれてきたかをまとめているのと、「客観性」論、資本主義・デモクラシー・自由の不一致、比較宗教社会学のような形での「対比すること」の意味、文書公開に対する考え方など、随所でウェーバーの思想の細かなポイントについて現代的意義を問うているのが特徴。私自身の抱えている問題意識とも重なる所が多そうだ。
読了日:05月29日 著者:野口 雅弘
人種と言語の混同、純粋な人種など存在せず、人種の定義も政治的に動かされてきたこと、人種の優劣を示すとされてきたことは実は社会状況のハンディキャップを示していたということなど、レイシズムの陥りやすい論点への反駁とレイシズムの歴史的展開を簡潔にまとめる。原著が書かれた80年前にアメリカやドイツを席巻していた「似非人類学」への反論は、現在の日本を席巻する「日本スゴイ」論や反中嫌韓論への反論としても生きそうである。
読了日:05月01日 著者:ルース・ベネディクト
奴隷のしつけ方 (ちくま文庫)の感想
古代ローマ人の書の翻訳という体裁の古代ローマ奴隷入門。奴隷というのは我々の想像からかけ離れたものではなく、今の日本の社会でも似たような人々は存在しそうである。ことによるとそれは自分自身であるかもしれないという気付きを与えてくれる。各章末の本来の著者による解説は奴隷制に否定的な論調である一方で、奴隷制に肯定的な名目上の著者マルクスの主張をすんなり受け入れそうになるのが怖い。
読了日:05月04日 著者:マルクス・シドニウス・ファルクス,ジェリー・トナー
五・一五事件-海軍青年将校たちの「昭和維新」 (中公新書 (2587))の感想
事件に関する著者の設定する「謎」をめぐって議論が展開される。事件を広く国家改造運動の一環として位置づけ、犬養毅襲撃は海軍将校たちの目的のひとつにすぎなかったこと、犬養死後の後任擁立をめぐる動きと当時の政党政治の評価、襲撃に関与した海軍将校たちに対して国民は同情的だったが、血盟団事件に関与した民間の右翼に対しては関心が薄かったこと、在郷軍人による政治団体の影響力に関する話などを面白く読んだ
読了日:05月07日 著者:小山 俊樹
論点・西洋史学の感想
西洋史の用語というよりは、「ブラック・アテナ論争」「大分岐」「世界システム論」「オリエンタリズムとポストコロニアリズム」など、学界に大きな影響を与えた主張や議論、思潮を中心に項目を立てている。大学のゼミなどでの討論、プレゼンテーション、レポート用の教科書という側面が強いが、西洋史学研究に関する読む辞典という使い方もできるだろう。
読了日:05月12日 著者:
俠の歴史 東洋編 上の感想
個々の人物伝としては面白いが、彼らの事績が「侠」として語られるべきものなのか?「義」や「忠」など他の徳目で説明すべきものではないのかと思う項目が多い。渡邉義浩の「関羽」の項目で、関羽の「侠」の精神を「利他の義」と位置づけているが、総論部でこのようなそもそも「侠」とは何かという議論をもっと丁寧にやるべきだったのではないかと思う。
読了日:05月15日 著者:鶴間 和幸
ルポ 技能実習生 (ちくま新書 1496)の感想
技能実習生について、現在最多を占めるベトナム人の事例を中心に、制度の概要や問題点を解説。技能実習生=奴隷に等しい存在というわけでもなく、実習生制度が大金を得られる出稼ぎ手段としてある程度成立していること、実習生の失踪の原因は基本的に低賃金の問題であり、失踪者が発生しやすいのは建設業や農業など業種がある程度固まっていることなど、その実態が日本で持たれている印象とはズレがあることを示している。韓国の雇用許可制との比較があるのも有用。
読了日:05月20日 著者:澤田 晃宏
中国人の機智 『世説新語』の世界 (講談社学術文庫)の感想
相手をやりこめるための高度な言語テクニックとしての「機智」を『世説新語』から読み取る。相手の論拠を逆手にとる、誰もが知ってる典故を織り込んで自分の主張を普遍的なものであるかのように見せかけるなどの基本テクニックは、TwitterなどのSNSでの論戦で活用できそうである。現代に生きておれば間違いなくSNS強者になったであろう毛沢東や魯迅との比較も、その意味では極めて的確である。原著刊行から40年近く経過し、新たな意義を獲得した書と言えよう。
読了日:05月23日 著者:井波律子
陸海の交錯 明朝の興亡 (シリーズ 中国の歴史)の感想
シリーズ全体の小結として、モンゴル帝国崩壊後に成立した諸帝国が柔構造の統治組織であったのに対し、社会の隅々まで統制を加える固い体制で出発した明朝の達成と矛盾を描く。その「固い体制」が中華世界システムを生み出し、それが朝鮮、ベトナム、そして我々日本といった周辺諸国の世界観をも規定することになる。明朝の歴史は我々日本人の歴史でもあり、日本国の抱える問題を振り返るうえでの起点となることを示唆してくれる書となっている。
読了日:05月25日 著者:檀上 寛
漢方医学 「同病異治」の哲学 (講談社学術文庫)の感想
漢方の基本的な考え方や、中医・韓方との違い、漢方の限界や問題点などがコンパクトにまとめられている。漢方医学と西洋医学とは二項対立的なものではなく、漢方では癌は治せないが抗癌剤の副作用を抑制する効果があるなど、共存・併用できるものしされている。また両者の共存・併用のあり方も日中韓で違いがあるようだ。感染症に関する話題もある。新型コロナウイルスに漢方がどのように対応できるかという話が紹介されるのはこれからだろうか。
読了日:05月27日 著者:渡辺 賢治
マックス・ウェーバー-近代と格闘した思想家 (中公新書)の感想
ウェーバーの思想と著書について、日本での受容も含めて彼の死後にどう読まれてきたかをまとめているのと、「客観性」論、資本主義・デモクラシー・自由の不一致、比較宗教社会学のような形での「対比すること」の意味、文書公開に対する考え方など、随所でウェーバーの思想の細かなポイントについて現代的意義を問うているのが特徴。私自身の抱えている問題意識とも重なる所が多そうだ。
読了日:05月29日 著者:野口 雅弘
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