博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『義和団事件風雲録』

2011年02月10日 | 中国学書籍
菊池章太『義和団事件風雲録 ペリオの見た北京』(大修館書店あじあブックス、2011年2月)

ポール・ペリオと言えば敦煌学の分野で有名なフランスの東洋学者ですが、そのペリオが義和団事件に巻き込まれた時の日誌が発見された!ということで、若きペリオの視点から「北京の五十五日」を追った本です。

本書で紹介されているネタの中で面白かったのは、以下のエピソード。義和団の襲撃に難儀した西洋人たちは(おそらく敵の襲撃をかわすため)マネキンを二体立てておいたところ、義和団側が勝手に陰門陣と勘違いして驚愕したという話。この陰門陣というのは、素っ裸の女性を陣頭に立てることで大砲の効力を封じてしまうという秘術。更にこれと対抗するための陽門陣も存在し、こちらは素っ裸の坊さんを陣頭に立てる。

この陰門陣は明末の李自成の乱の頃から盛んに用いられるようになり、魯迅によれば太平天国の乱でも大活躍したとのよし。このことを知っていた義和団員はマネキンを陰門陣と勘違いし、弾よけの法術が破られたと思い込んだのであろう……といったことが書かれているのですが、本当にそんな風習が存在したんですか?民明書房の本から引っ張ってきたネタじゃないんですか?とツッコミたくなります(^^;)

もうひとつ面白かったネタ。修業を積むことで銃弾をも避けることができると豪語する義和団員。その話を聞いた毓賢は義和団員から有志を募って試しに銃撃させてみることにしたが、射撃手はわざと弾を外した。後に袁世凱も同じように銃撃させてみたが、こちらは容赦なく一斉射撃させたので団員たちは即死。やったッ!!さすが袁世凱!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!

他にも西太后の実像とか、八カ国連合軍の中では日本軍人が一番しっかりしてたという話とか、燃え盛る翰林院に飛び込んで漢籍を救出しようとした古城貞吉とか、それなりに面白い小ネタが散りばめられていますが、肝心のペリオの日誌の内容よりも義和団の宗教性について述べたあたりが一番惹かれたなあと。著者の専攻も元々そのあたりのようですしね。

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5 コメント

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空気を読める男だったのにw (河村 豊)
2011-02-10 21:19:17
袁世凱って、西太后にコビ売るところはコビ売ってうまく生き残ったんだけど、義和団に対しては諸外国のことを考えて弾圧する側に回りましたね。このあたりの空気読み力はスゴイと思います。

ただ、最後の最後に空気を読み違ったのでお笑いキャラになっちゃいましたがw
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Unknown (さとうしん)
2011-02-10 22:30:25
>河村豊さま
一時失脚して北京を追われた時も、北京からそう遠く離れておらず、交通の便が良い安陽を隠居の地に選び、北京からの情報収集につとめていたと知った時に、「袁世凱スゲーーッ!」と思いました。確かに物凄く政治的なセンスがあった人物だと思います。最後に皇帝になっちゃったのは……年を取って耄碌していたんでしょうか(^^;)
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Unknown (Archer)
2011-02-11 03:27:41
>銃弾をも避けることができる
辻政信もそんなことを言っていたような…。嘘か真かは別として、これができることがステータスなのでしょうか^^;

あと、先年暮れに某英国誌が義和団の特集をやっていたのですが、「義和団」は英語でBoxerというらしいですね。由来には諸説あり、調べてみるとなかなか面白かったです。
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元ネタありそう (飯香幻)
2011-02-11 15:13:15
>素っ裸の女性を陣頭に立てることで大砲の効力を封じてしまうという秘術

これ『東遊記』に出てきたのに似てます。簫太后に呂洞賓がつき、楊家将に漢鐘離がついて争った際、呂洞賓が太陰陣を構え、全裸の西夏国の娘に泣き声をたてさせて妖術的な効果を示すんですよね。
でもこれ『楊家将演義』にも記述があるのかどうかは定かじゃないわ。

何かしら民間で似たようなモノが伝わっていたかもですねえ。
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Unknown (さとうしん)
2011-02-11 19:24:39
>Archerさま
>辻政信もそんなことを言っていたような…。

精神論の行きつく先はみんな同じようなもんになるんでしょうかねえ(^^;)

>由来には諸説あり、調べてみるとなかなか面白かったです。

徒手空拳で戦う→Boxerという連想なのかなと思ってましたが、諸説あるんですか……

>飯香幻さま
思わぬ所に類似のネタが…… 案外民間の風習が小説に反映されたのではなく、小説のネタが現実の法術として取り入られたのかもしれませんね。義和団なんて孫悟空やナタを神降ろししたりと、小説の(悪)影響を受けている面がありますし。
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