博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2017年6月に読んだ本

2017年07月01日 | 読書メーター
だまされないための「韓国」 あの国を理解する「困難」と「重み」だまされないための「韓国」 あの国を理解する「困難」と「重み」感想
「一段劣った国」「日本やアメリカより小さくて弱く、圧力をかければ言うことを聞く国」という決めつけが韓国理解を損ねるという点は同意だが、本書に頻出する「正しい××」、特に「正しい歴史(認識)」に関する議論にはやはり違和感がある。「韓国側にとって本来あるべき理想の歴史」に対応するのは本当に「史料に基づき客観的な考証を深めることで導かれた、より事実に近づいた定説」なのだろうか?「学術的な考証によって日本側に一方的に不利な結論を突きつけられた場合、日本人は「客観的に」それを受け入れられるのだろうか?
読了日:06月01日 著者:浅羽 祐樹,木村 幹,安田 峰俊

目録学に親しむ―漢籍を知る手引き (京大人文研漢籍セミナー)目録学に親しむ―漢籍を知る手引き (京大人文研漢籍セミナー)感想
三編のうち宇佐美文理「子部の分類について」の、四部分類の子部は他の三部に収まらないような雑多な残り物を収める部であるという指摘、永田知之「目録学の総決算」の、紀昀が『四庫全書』の編纂に関与したことで、逆に経学を至上とする伝統的な学術観から自由になれたのではないかという指摘が面白かった。孫悟空の『西遊記』と『長春真人西遊記』とが混同され、この二つがそもそも別の書であることがわからないまま『西遊記』の著者が邱長春というのは仮託であるというもっともらしい考証がなされるのは、笑っていいのか悪いのか…
読了日:06月03日 著者:古勝隆一,京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情

21世紀の「中華」 - 習近平中国と東アジア21世紀の「中華」 - 習近平中国と東アジア感想
同じ著者による『中国のフロンティア』の姉妹編ということで読んでみることに。こちらは2012~16年までに新聞・雑誌等で発表した時評をまとめたもの。中国が国際秩序の挑戦者か貢献者か、あるいは、イギリスに挑戦しつつも既存の秩序を受け入れたアメリカのようになるのか、それとも二度の世界大戦で英米に挑戦したドイツのようになるのかが主要なテーマとなっている。本書を読む限り、その二つの顔を使い分けているということになりそうだが…
読了日:06月06日 著者:川島 真

哲学の誕生: ソクラテスとは何者か (ちくま学芸文庫)哲学の誕生: ソクラテスとは何者か (ちくま学芸文庫)感想
サブタイトルの「ソクラテスとは何者か」が本書の内容を的確に言い表している。すなわち当時のソフィストの一人だったと思しきソクラテスが、プラトンら後人の残した「ソクラテス文学」と呼ぶべき対話篇の中でどのように描かれ、他のソフィストたちから切り分けられ、最初の哲学者とされるようになったのかという話。最終章の「無知の知」をめぐる議論とともに、たとえばソクラテスと同じく「述べて作ら」なかった孔子や『論語』について考える時に、応用が利きそうな議論となっている。
読了日:06月10日 著者:納富 信留

中国語はじめの一歩〔新版〕 (ちくま学芸文庫)中国語はじめの一歩〔新版〕 (ちくま学芸文庫)感想
中国語の基本的な解説のほか、語感として据わりのいい・悪い表現、「両」の単位で数えられる餃子、「你好」は日常的な挨拶か?といった文化的な問題、そして日本語と中国語との空間表現の違いなど、哲学的といっていい問題にも踏み込んでいる。折に触れて読み返したい。
読了日:06月13日 著者:木村 英樹

モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る (講談社選書メチエ)モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る (講談社選書メチエ)感想
考古学の成果から見るチンギス・カンとモンゴル帝国。特に鉄資源との関わりに重点を置いている。面白かったポイントは、一般的にチンギス・カンの盟友とされるジャムカとの関わりがほとんど触れられていないかわりに、ケレイトのトオリルとの関わりについて詳しく述べられている点、当時のモンゴル高原が金と西遼との勢力争いの場となっており、チンギス・カンは当初親金派として活動したことなど。あくまで「カン」として生涯を終えた等身大のチンギスが描かれている。
読了日:06月15日 著者:白石 典之

中世ヨーロッパの騎士 (講談社学術文庫)中世ヨーロッパの騎士 (講談社学術文庫)感想
物語に出てくる理想の騎士や騎士道に対して現実の騎士は……という話なのかと思いきや(まあそういった話が大半を占めるのだが)、アーサー王伝説が当時のブリタニアの実状を反映していないとしつつも、そのアーサー王伝説に出てくる円卓の騎士の影響を受けてガーター騎士団が結成されたり、そうした騎士道文学の語り手である吟遊詩人自身が実は騎士の家の出身であったり、ラストで引かれる『ドンキホーテ』など、現実と物語との関係を考える素材として面白く読んだ。
読了日:06月18日 著者:フランシス・ギース

大航海時代の日本人奴隷 (中公叢書)大航海時代の日本人奴隷 (中公叢書)感想
今まで存在は知られていたものの、細部に立ち入らないままだった日本人奴隷の姿を活写。序章で登場する日本人奴隷ガスパール・フェルナンデスが、主人一家がユダヤ人であったことによりアジア各地を転々と逃亡し、主人一家から引き離された後にメキシコで元の主人の息子と再会を果たしたという話を読むと気が遠くなるようである。世界各地にこうした事情で埋没していった日本人奴隷の子孫がたくさんいるのだろう。その一方で、当時の日本人奴隷は本書にも顔を出す中国人・朝鮮人奴隷と包括的に扱う必要があるようにも感じた。
読了日:06月20日 著者:ルシオ・デ・ソウザ,岡 美穂子

治安維持法 - なぜ政党政治は「悪法」を生んだか (中公新書)治安維持法 - なぜ政党政治は「悪法」を生んだか (中公新書)感想
もともとは日本共産党のような、ソ連やコミンテルンを背景とした結社を取り締まるための法律として制定されたはずの治安維持法。それが当時の政治状況の変化によって、この法律であれもしたい、これもしたいということになり、本文中に引く思想検事中村義郎の言葉のように「制度というものの通弊で、ひとりでに増殖していく」さまを描く。いま話題の共謀罪の行く末というよりは、既に運用が開始されて1年以上が経過したマイナンバー制度の行く末を暗示しているかのようである。
読了日:06月23日 著者:中澤 俊輔

中国ナショナリズム - 民族と愛国の近現代史 (中公新書)中国ナショナリズム - 民族と愛国の近現代史 (中公新書)感想
日本との関係については、二十一ヵ条の要求、済南事件、そして日中戦争でそれまで外国人と接触したことがなかったような農村にまで侵入したことなど、反日感情がナショナリズムと不可分の関係になった歴史的な経緯を的確に押さえている。その他の個別の議論は正直食い足りない部分もあるが、概説としてはこんなところだろうか。
読了日:06月26日 著者:小野寺 史郎

バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書 2440)バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書 2440)感想
こうして近代のバルカンの歴史を通覧すると、ナショナリズムのもたらす理不尽を一身に受けているように感じる。また、こうした理不尽は、やはりかつてオスマン帝国の統治下にあったアラブ諸国も受けているのではないか。西欧列強の思惑に振り回されたという点でも共通しており、近現代のバルカンとアラブの状況を比較すれば面白いのではないかと思った。
読了日:06月29日 著者:マーク・マゾワー


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