博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2018年4月に読んだ本

2018年05月01日 | 読書メーター
「論語」2000年の誤訳 (ベスト新書)「論語」2000年の誤訳 (ベスト新書)感想
本書で違和感を抱いたのが、冒頭の「定本」と「定訳」の話。『論語』のような古典文献には、「底本」は存在するが、通常はそれを基礎として更に学者・研究者の校訂が施され、従来の注解を踏まえつつ批判を加えて訳が作られるわけで、定本も定訳も存在しないのではないだろうか。本書での著者の解釈も、仮にそれが従来の解釈と比べて妥当なものであったとしても、数ある『論語』の注解のひとつという扱いになるはずである。あと、本書で触れられていない宮崎市定のものは「オチャラケ解釈」に入ると思う。
読了日:04月01日 著者:佐久 協

教養としての中国古典教養としての中国古典感想
『論語』や『老子』、『十八史略』など、日本でよく読まれてきた主要な漢籍の解題を収録。漢籍の概要や読みどころのほか、訳注類を中心とする参考文献についての簡単な紹介もある。巻末に現代中国の古典教育に関する解説もあり、行き届いた古典ガイドになっている。
読了日:04月04日 著者:

知性は死なない 平成の鬱をこえて知性は死なない 平成の鬱をこえて感想
著者の躁うつ病と、日本の大学の現状、そして「反知性主義」に覆われた世界、これらが重ね合わせに語られる。リハビリの過程で触れたボードゲームなどのゲームデザインから社会的モデルのあり方を見いだす話に、Yahoo!個人での歴史学者廃業宣言を踏まえると、今後文筆業を再開するとしても、これまで「中国化」路線とは全く違った方向で議論を展開することになるのではないかと感じた。
読了日:04月08日 著者:與那覇 潤

オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家 (講談社学術文庫)オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家 (講談社学術文庫)感想
第一部・第二部でネイション・テイストやイスラム世界そのものについて解説するなど、本論の前提の解説について多くの紙幅を割いている。本題は第三部となるが、これもオスマン帝国の歴史から説き起こす。多民族帝国であるハプスブルク帝国に対して、オスマン帝国が民族や言語ではなく宗教を軸とする多宗教帝国であり、多種多様な民族と言語を持つ人々がモザイク状に分布するという状況の中で「パクス・オトマニカ」が維持され、「西洋の衝撃」以後もある時期までは宗教を軸に国家統合を図ったという対比が面白い。
読了日:04月09日 著者:鈴木 董

a href="https://bookmeter.com/books/12753792">征夷大将軍研究の最前線 (歴史新書y)征夷大将軍研究の最前線 (歴史新書y)感想
12本の論考を通じて、鎌倉~江戸時代の征夷大将軍像、あるいは源氏像の変遷を追う。足利尊氏が征夷大将軍となるまでは、源頼朝個人とのつながりは意識されても、「源氏の嫡流」が将軍となるべきという発想が存在しなかったという点、第三部の八幡信仰との関係、第四部の江戸時代の新田源氏の諸氏の扱いを面白く読んだ。欲を言えば、「前史」として古代の征夷大将軍についても1章を割いて欲しかった。
読了日:04月14日 著者:

漢帝国成立前史漢帝国成立前史感想
陳勝・呉広の乱から楚漢戦争までの流れや論点を追う。著者の論文が下敷きということだが、概説調で読みやすい。秦の統一が一時的な武力制圧にすぎなかったこと、群雄が戦国七雄並立体制があるべき姿という発想から容易に抜け出せなかったこと、項羽も劉邦も他の諸王に対して圧倒的に優位な立場にあるというわけではなく、劉邦は垓下の戦いにおいてようやく反項羽連合の盟主としての実質を備えるに至ったことなど、読みどころとなる主張が多い。「その後」のことは著者もしくは後人の課題ということになるだろうか。
読了日:04月16日 著者:柴田 昇

鎖国前夜ラプソディ 惺窩と家康の「日本の大航海時代」 (講談社選書メチエ)鎖国前夜ラプソディ 惺窩と家康の「日本の大航海時代」 (講談社選書メチエ)感想
藤原惺窩の半世紀なのだが、近世初頭の学術史でもあり、朝鮮使節との交流などをとっかかりに、当時の日本をめぐる国際交流史ともなっている。話があちらこちらへと自由に展開されるさまは、確かに「ラプソディ」という感じがする。当時が「日本の大航海時代」であり、惺窩の学風がそれを支える思想で「日本の近代」を準備したと位置づけるなら、「鎖国前夜」と「開国」の間の「鎖国時代」に関する続著にも期待したいところ。
読了日:04月18日 著者:上垣外 憲一

明治史講義 【人物篇】 (ちくま新書)明治史講義 【人物篇】 (ちくま新書)感想
軍事的指導者としてのリーダーシップが強固な組織作りに生かされる一方で、権力への執着心が弱かったという板垣、財政と民主主義との矛盾に直面した大隈、シュレースヴィヒ・ホルシュタイン戦争の視察によって赤十字の思想を学んだ榎本、福田英子のセクシュアリティの問題、嘉納治五郎の柔道が警察の道場に採用された事情など、伊藤・西郷・山県などより割とサブに近い人物の評伝の方を面白く読んだ。
読了日:04月21日 著者:

日露近代史 戦争と平和の百年 (講談社現代新書)日露近代史 戦争と平和の百年 (講談社現代新書)感想
伊藤博文・後藤新平・松岡洋右と、各時期の対露外交を担った人物を中心に近代の日露関係史を描き出しているが、印象に残ったのは伊藤による日露交渉の失敗をはじめとする対露交渉の失敗・挫折である。戦前の日露対立には民族・宗教・イデオロギーの相違や貿易の不均衡は絡んでおらず、自国の安全保障の問題が絡んだ時のみ両国が激しい角逐を繰り広げたとまとめるが、その点にこそ日露関係の独特の面倒くささのようなものがあるのかもしれない。
読了日:04月25日 著者:麻田 雅文

歴史修正主義とサブカルチャー (青弓社ライブラリー)歴史修正主義とサブカルチャー (青弓社ライブラリー)感想
歴史修正主義をメディアとの関係の中でとらえる。ネット前夜の1990年代に論壇のサブカル化、雑誌等でのハガキ職人の隆盛、歴史ディベートの登場、相対主義の絶対化、朝日新聞を叩くと売れるという構図の出現などによって現在の状況の下地が作られていったと分析する。「ゲームが違う」という歴史修正主義者の基づくルールを熟知したうえで、その「ゲーム」を壊せるか、ルールを変えられるかと考えると、かなり絶望的な気分になるが…
読了日:04月30日 著者:倉橋 耕平


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