バッハによる「平均律クラヴィーア曲集」第1巻の直筆の表紙。
音楽を学ぶ生徒の教材として、また高い演奏スキルをもつ者の気晴らしに良い、と書いてある。
Bach, Johann Sebastian:Das wohltemperierte Clavier, 1 teil, 24 Praludien und Fugen BWV 846‐869は1722年に完成する。
長短24調による前奏曲(Preludium)とフーガ(Fuga)からなる曲集。1722年成立。直訳すると「うまく調律されたクラヴィーア(Das Wohltemperirte Clavier)、あるいは、長三度つまりドレミ、短三度つまりレミファにかかわるすべての全音と半音を用いたプレリュードとフーガ。
音楽を学ぶ意欲のある若者たちの役に立つように、また、この勉強にすでに熟達した人たちには、格別の時のすさびになるように。
元アンハルト=ケーテン宮廷楽長兼室内楽団監督、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが起草、完成。1722年とある。単独に作曲された曲集ではなく、その多くは既存の前奏曲やフーガを編曲して集成されたものである。
特に前奏曲の約半数は、1720年に息子の教育用として書き始められた「ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集」に初期稿が「プレアンブルム」として含まれている息子の教育鍵盤曲である。
前奏曲とフーガという2曲1組で、すべての長調と短調、合計24の調で書かれ、第1巻と第2巻があるので、合計48組の前奏曲とフーガからなっている、大きな曲集です。
指揮者にしてピアニストだったハンス・フォン・ビューローという音楽家は「音楽の旧約聖書」と呼んだぐらい、重要な古典となっています。ちなみに彼が「新約聖書」と呼んだのは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタです。
18世紀前半にはまだ、現代的な意味での十二等分平均律(1オクターヴ12音の各周波数比を2の12乗根とする調律法) を実践できなかったが、少なくともバッハは「24の調がすべて綺麗に弾けるように自分の楽器を調律することを学んだ」(フォルケル)と言われている。
この曲集が《インヴェンション》と同じく教程として編まれたことは間違いない。しかし同時に、全調を用いて音楽の世界を踏破するという大きな理念が込められていた。
「世界」の普遍的な秩序を捉えること。これは16-17世紀を通じて希求された究極の神学的課題である。《平均律クラヴィーア曲集》は、神の秩序をうつしとった、小さな完成された「世界」(ミクロコスモス)なのである。
「平均律クラヴィーア曲集」からバッハの音楽に入ったという人は、どのくらいいるだろう。わりと少ないかもしれない。
というのも、「平均律」という日本語タイトルにあるこの言葉が、なんとなく謎めいているというか、近づきがたい印象を持たれるように思うからだ。
バッハはクラヴィーア、すなわちクラヴィコードやチェンバロのような(ピアノが作られるよりも前の)鍵盤楽器のために作った作品は数々あるが、「イタリア協奏曲」や「フランス組曲」や「イギリス組曲」など、お国名を冠した楽しい感じのする作品に比べたら、「平均律」と言われても、ちょっとどうしたら……という気持ちにはならないだろうか。
「平均律とは、調律方法の一つである。曲の中で、つぎつぎと調性を変化させても、違和感なく美しく響いてくれる便利な調律の仕方だ。
バッハは1オクターブの12音を主音とする長調・短調、つまり24の調性を網羅した曲集を書こうと思った。全調がほどよくきれいに響く調律方法があるなら、ひとつのまとまった曲集を作ることが可能なのだ。ただし、バッハがこの曲集につけたドイツ語のタイトルを注意深く見てみると、Das Wohltemperirte Clavier、つまり「うまく調律されたクラヴィーア」としか言っていない。
この時代の調律は大変難しい事のようで、バッハは「平均律」なんて書いていない。日本では「うまく調律された鍵盤楽器」が最適のようですね!
当時はまだ「平均律」が現在ほど一般的ではなかったようなのだが、少なくともバッハは「全調に対応できるように“うまく”調律された」鍵盤楽器を想定していたと思われる。
この曲集が日本にもたらされた時、だれかが「だったら当然“平均律”でしょ」ということで、このように翻訳してしまったのだろう。それが定着したことになる。ある音からその1オクターヴ高い音までを、均等に12の音で分割する方法。現代のピアノは通常平均律で調律されている。
ピアノの鍵盤を思い描いていただければわかりやすいと思うが、ドから1オクターブ高いドまでの間には、白鍵と黒鍵合わせて12個の音がある。
本当はオクターブ内の音を12で割り切ることは数学的にムリなのだが、少しずつ妥協して均等化をはかることで、どの調を弾いても違和感を与えない。
しかし、厳密に言うと平均律では本来の音と音のハーモニーの純正な美しさは損なわれている。極めて美しく響かせる純正律や中全音律などの音律があるが、それらは鍵盤楽器のようにあらかじめ弦の音の高さが固定された楽器では、調性が変わると美しく響かなくなってしまうのだ。
演奏は多くの優れた演奏家がいますが、やはりここはワンダ・ランドフスカ(Wanda Landowska)が光る
録音は古く音質は劣るが、未だに良く聴く事は演奏は大変優れている。
昔ワンダ・ランドフスカを知ったのは五味康祐氏の本により知った演奏者で随分長く聴いている。
彼女を知る逸話に「あなたはあなたの方法でバッハを演奏し、私はバッハの方法で演奏します。これはランドフスカがチェンバロ嫌いのカザルスに攻撃された際に静かに答えた言葉です。
往年のチェンバロ奏者ワンダ・ランドフスカは、ピアノの普及により埋もれてしまっていたチェンバロを現代に復興させた立役者である。
20世紀初頭、バッハの作品は少ないながらも演奏会で取り上げられてはいましたが、チェンバロ作品についてはほぼモダン・ピアノ演奏の一択という状況でした。
19世紀末の1889年に開かれたパリ万博では、プレイエル社とエラール社がチェンバロを出品して連続演奏会が開かれるなどしていたものの、あまり注目されることはなく、ランドフスカ自身も、1892年、13歳でバッハ作品をメインにしたプログラムでピアニストとしてデビューするなど、当初はピアノでバッハを弾いていました。
その後、民俗学者の夫からの影響などもあってランドフスカはチェンバロに強い関心を持つようになり、各地の博物館なども回って保存されていた楽器などを研究し楽器も購入、24歳の時にはチェンバロ奏者としてのデビュー演奏会を開催し、以後、チェンバロのスペシャリストとして知名度も向上。
そして1912年には、演奏会場での音量不足問題を解決した新たなチェンバロ「ランドフスカ・モデル」を完成してドイツのブレスラウ音楽祭で披露するに至ります。
この楽器は、かつてヘンデルなども使用していたという大型チェンバロや、ランドフスカによる研究成果などをもとにパリのピアノ製作メーカー、プレイエルが製作した2段鍵盤モデルで、頑丈なピアノの筐体技術や弦の強靭な張力を利用して、16フィート弦と7つのレジスター操作ペダルまで備えていました。
ランドフスカはこの楽器を主に用いて、チェンバロ復興のための活動に乗り出しす。勿論平均律クラヴィーア曲集も全曲今も残っている。
コンサートで、バッハやクープラン、ラモーのチェンバロ音楽を紹介し続ける一方で、1912年から1919年までは、ベルリン高等音楽院でチェンバロを教え、1933年には世界で初めてバッハの『ゴルトベルク変奏曲』をチェンバロでレコーディングしてもいました。ちなみにこの『ゴルトベルク変奏曲』は、日本と関わりのあるエピソードでも知られています。
ある日本女性が敗血症にかかって重篤な状態に陥っていた時、この『ゴルトベルク変奏曲』のレコードを鑑賞して感動、生きる力を得て、その後、快方に向かったという出来事を、レコード会社がランドフスカ本人に伝えたところ、感激したランドフスカから自身のメッセージ入りポートレートが贈られたということです。
コンサートで、バッハやクープラン、ラモーのチェンバロ音楽を紹介し続ける一方で、1912年から1919年までは、ベルリン高等音楽院でチェンバロを教え、1933年には世界で初めてバッハの『ゴルトベルク変奏曲』をチェンバロでレコーディングしてもいました。
また、ランドフスカは、ピアノによる個性的なモーツァルト演奏の数々でも有名で、凝った装飾音や、協奏曲での驚きのカデンツァなど聴きどころが多数あります。
バレンボイムも昔から使用してきた『戴冠式』のカデンツァなど実に魅力的です。今も大切に保管する、ヒストリカル・レーベル「アルス・ノヴァ」から登場する24枚組ボックスは、1926年から1958年までの音源をセレクトしたもので、RCAビクターのSP録音とテープ録音、HMVのSP録音を中心にライヴ音源も数多く収録。独特のスタイルによる演奏の魅力を満喫できる内容となっています。
その後ドイツ軍による強奪により1941年12月7日にアメリカに到着しニューヨークに定住した。今聴いても充実した演奏が聴けるランドフスカ71歳の演奏だそうです。
1951年、RCAビクターの平均律クラヴィア曲集第1巻の録音を完成、第2巻の録音を開始。1954年RCAビクターの平均律クラヴィア曲集第2巻の録音を完成。歴史的演奏を残した曲、今聴いているのです。第2巻は当時74歳とは思えない演奏である。
● バッハ:平均律クラヴィア曲集第1巻 BWV 846-869
ワンダ・ランドフスカ(チェンバロ)1949/03 & 1951/02 Mono
● バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻 BWV 870-893
ワンダ・ランドフスカ(チェンバロ)1951/06-1954/03 Mono
筆者の最近のお気に入りは・・・・・・・・
ティル・フェルナー(Till FELLNER)、1993年のクララ・ハスキル国際コンクールに優勝し、国際的な注目を集めたオーストリアのピアニスト。
2018/19年シーズンは、チューリヒ・トーンハレ管、ロンドン響、バイエルン放送響といったヨーロッパの主要オーケストラにデビューしたほか、ミネソタ管、モントリオール響に登場。
その前のシーズンには、ニューヨーク・フィル、シカゴ響、ザルツブルク・モーツァルテウム管、ロッテルダム・フィルなどと共演している。室内楽ではイギリスのテノール歌手マーク・パドモアと定期的に活動し、2016年にハンス・ツェンダーの新作を世界初演したほか、2017年に日本ツアー、2017/18年シーズンにはウィーンやザルツブルクなどでリサイタルを行った。
フェルナーは、ピアノ作品の中でも特に重要とされるJ.S.バッハの「平均律クラヴィーア曲集」と、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲の演奏に力を注ぎ、2008年から2010年にかけてニューヨーク、ワシントンD.C.、東京、ロンドン、パリ、ウィーンで同ソナタの全曲演奏を行った。
現代音楽の演奏にも積極的で、キット・アームストロング、ハリソン・バートウィスル、トーマス・ラルヒャー、アレクサンダー・スタンコフスキ、ハンス・ツェンダーの作品を世界初演している。
録音ではECMレーベルの専属アーティストとして、J.S.バッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻」
「インヴェンションとシンフォニア、フランス組曲第5番」、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番&第5番(共演:ケント・ナガノ指揮モントリオール響)」、最近ではバートウィスルの室内楽曲をリリースしている。
2016年にはベルチャ弦楽四重奏団との共演によるブラームス「ピアノ五重奏曲」をアルファ・クラシックスからリリースした。
J.S.バッハ: 平均律クラヴィーア曲集 第1巻
CD1
第1番 ハ長調 BWV846/第2番 ハ短調 BWV847/第3番 嬰ハ長調 BWV848/
第4番 嬰ハ短調 BWV849/第5番 ニ長調 BWV850/第6番 ニ短調 BWV851/
第7番 変ホ長調 BWV852/第8番 変ホ短調(嬰ニ短調) BWV853/第9番 ホ長調 BWV854/
第10番 ホ短調 BWV855/第11番 ヘ長調 BWV856/第12番 ヘ短調 BWV857
CD2
第13番 嬰ヘ長調 BWV858/第14番 嬰ヘ短調 BWV859/第15番 ト長調 BWV860/
第16番ト短調 BWV861/第17番 変イ長調/第18番 嬰ト短調 BWV863/第19番 イ長調 BWV864/
第20番 イ短調 BWV865/第21番 変ロ長調 BWV866/第22番 変ロ短調 BWV867/
第23番 ロ長調 BWV868/第24番ロ短調 BWV869
【演奏】
(ピアノ)
【録音】
2002年9月 ウィーン
1972年ウィーン生まれのティル・フェルナー(Till FELLNER)は、93年のクララ・ハスキル国際コンクールの優勝者として注目された。
アタック(音の立ち上がり)が全体的に柔らかで、残響も豊かな録音。
だが、音色の幅は豊かで、第5番の前奏曲など、とりわけ素早いパッセージや装飾音の羽の生えたような軽やかさは絶品!
YouTube配信は有料でしたが、とても柔らかな感じのモダンピアノで聴く理想的な「平均律」のCDの一つだ。
第10番変ホ短調で涙してほしい。ブラボー!
というウェブ・ページでながながと色々なことを書き込んでいます。
ワンダ・ランドフスカの演奏もCDで聴きました。「バッハ の方法で」といいながら、随分と個性的な演奏と、強力なチェンバロです。音としては少し派手に思います。私の場合は、「バッハ と私だけで」を実践したくて、楽譜を打ち込んで、ピアノ音源で再現しています。ピアニストのいらない方法です。MIDIのデータを再生したり修正できる方は、私のデータを使って、「あなたの」演奏を作ることができます。
筆者がバッハの音楽を聴くことで和らぎを受けています。
勿論楽譜も大して読めませんが
バッハの音楽はそこを超えた所にある様に思います。
最近は晩年の曲を聴くことが多い様です。
貴重なデーターを紹介していただきありがとうございました。