2021/04/04
内田樹氏と感染症専門医の岩田健太郎氏の対談です。
対談は2020年4月、5月、7月初旬の3回行われて、発行は9月です。コロナの情報については、今となっては最新ではないのですが、感染症専門家の考え方や、参考になる点も多々ありました。
当時の政権批判(安倍政権)、アメリカの無保険制度やトランプ大統領のこと、中国の躍進など世界情勢についても興味深かったです。
本の紹介文では、
「新型コロナウイルスのパンデミックが無効化させた、ゼロサム競争、同調圧力、新自由主義。経済格差や分断が急速に広がるなかで、感染対策と経済活動に引き裂かれる社会。これまでの日常が非日常となった今、明日に向けての指針とは?コロナ禍における心身自由な生き方について。」
最近、厚労省の職員23人が深夜まで宴会をしたというニュースがありましたが、岩田氏が厚労省についてこんなことを語っている箇所がありました。
〈厚労省って「しんどければしんどいほど偉い」みたいな空気があるから、「楽にやれること」を嫌うんですよ。
多分、自分たちが日々死にそうになりながら働いているから、徹夜続きで血を吐くまで頑張る奴が偉い、みたいなエートスがある。
(私:だから大宴会になっちゃったのかな、こんなに頑張ったのだから慰労しようと・・)
未だに連絡にファックスとか使ってますから。「ファックスじゃなくて普通にコンピューターに入力して計算したほうが、三つくらい手間が省けて楽だし、間違いが起こらないでしょう」と彼らに言っても、「ファックスは紙で記録が残る」とか意味の分からない反論をされて。〉(p.96)
私もこれ、同感なんです。
余談ですが、私も役所からボランティア依頼の手紙が封書で届きますが、同封の用紙に記入してファックスで送り返すようになっているのです。
うちはもうファックスがないのです。十数年使ったファックス電話機を買い替えた時、ファックスのない電話機にしてしまったのです。
それで封書で送り返したら、「切手代がもったいないですよ」といわれて(きっと親切でしょうが)、なんだか封書で送り返すことができなくなってしまって。コンビニに行って、コンビニから50円を使ってファックスで送ったこともありました。初めてのコンビ二ファックスで大いに戸惑いました。
つまり、私も今どき、どうしてファックスなんだと思うわけです。その後、ファックスがないとお伝えして、メールでできるようになりました。昨年のことです。余談でした。
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目に留まったところを抜き書きで引用します。
〈岩田:過去のパンデミックの収束を見ても数年単位で収まっていく。いったん鎖国すれば収束は早まる。
エイズは40年近く世界中の学者が研究を続けているのに、まだまともなワクチン1つできていない。
ワクチンの効果が高ければ高いほど、炎症反応が惹起されやすくなる。
高齢者の死亡率が高いが、1918年頃、このコロナが流行っていたとしたら、何の問題もなかった。高齢者が死ぬ事は自然だからだ。当時の平均寿命は43歳くらいだった。
エボラのような致死率の高い強毒のウィルスはコロナほど怖くない。患者がすぐ死んじゃうか、重症化して隔離されるから、感染が広がらない。コロナはだから怖い。コロナは21世紀の鬼っ子。〉 (P.114) (5/14対談)
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〈岩田:アメリカでは失業保険の申請件数が4千万件を超えた。ワシントン州の男性がコロナで入院したら、一億2千万の請求書が来たというニュースがある。無保険者が3千万人近くいる。無保険なので、ICUは一泊1000ドル以上かかる。
内田:アメリカでは自己破産の原因の6割以上が医療費だと聞いた。
トランプはオバマ前大統領が国民皆保険を目ざしたオバマケアは大反対。自助努力が基本。アメリカでは医療は高額商品だという考え方だ。〉(p.121)
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〈安倍政権下では8年間国民を敵味方に分断して、敵の意見はすべて無視、味方の意見は優先的に採用、「身内」は更に厚遇という粗雑な政策運営をしてきた。その結果、「政権に反対する主張は何一つ現実化しない」という無力感を有権者に扶植することに成功した。政治に関心を失った人が大量に生まれた。
「国民全員が等しく受益できる仕組み」を構想するのが今の政権は苦手。だから、感染症対策でさえ、「身内がそれで利益を得る政策」を優先的に考える。
日本の政治家も官僚も「責任を取りたくない」が最優先。決定事項がまずあって、それを正当化させるためのデータを探してくる。 コロナに対する科学的な態度に背を向けないように。〉
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〈B型肝炎ワクチンは、世界最初のガンのワクチンです。多くのガンは感染症が原因で起きてまして、例えば肝臓がんは、ウィルスとお酒が基本的な原因。
B型肝炎ワクチンはめちゃめちゃ効くワクチンで、全世界で打ちまくりましょうという流れが1980年代から始まっていた。(P.183)
日本ではまだ風疹はなくならないが、予防接種で根絶できる病気。肝臓がんや子宮頸がんもそう。ワクチンで予防できる。〉
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岩田:日本は物と人との仕組みを軽視して、根性だけでやらせようとする伝統があるでしょう。(p.214)
コロナはものすごい人間チェッカー。コロナを話題にすれば、相手がどんな人物なのかわかる。「穏やかな人だと思っていたのに、実はこんなに狂暴な人だったのか」とか、「普段は昼行燈みたいな人なのに、いざというときは頼りになるんだなあ」とか。(p.215)
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中国は、武漢の市中感染のときに10日間くらいで、1千床の病院を二つ作った。
中国は、臨床医学的な研究にどんどんお金をかけている。
日本政府の教育に対する冷遇の結果が見えてくる。
韓国、台湾といった臨戦態勢の国と比べると、日本は正常性バイアスが強い国。日本の政治家は、平時の損得勘定を平気で、非常時局面に適用しようとする。〉(P.226)
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多くのガンは感染症で起こるというのは初耳で、へぇ~と思いました。
内田樹氏の話はいつもおもしろいし、岩田氏は、余分なことを言わないようにと政権から目をつけられているという話は、くすっと笑えた。忖度しないで、科学的な、本当のことをこれからも話していってほしいと思う。
お二人は20歳ほどの年齢差ですが、神戸で家も比較的近いのだそうです。
同感だと思ったり、いろいろ知ったことも多かったです。