2020/10/29
24日の東京バレエ団公演「M」が印象深くて、いろいろ思い出しているのですが、調べると1993年初演時の動画がありました。
NHKテレビの「芸術劇場」で放送されたようです。
画質はあまりよくありませんが、衣装、振付、舞台装置などほぼ今回と同じで、記憶を思い起こせます。バレエはなかなか放送されませんから記録としても貴重です。劇場で見るものは一期一会のことが多いのです。
稽古風景、ベジャールのインタビュー、黛敏郎のインタビューの後、18分58秒頃から公演が始まります。1時間以上と長いので、興味のある方はどうぞ。
世界初演 モーリス・ベジャールの「M」 PartⅠ
冒頭の黛敏郎の日本的な音楽が将来の悲劇を予感させるようです。女性たちは波、潮騒です。
実際の舞台でも、祖母に手をひかれた学習院の制服を着た少年が出てきたときから、何か胸に迫るような痛々しい感じを受けました。子どもの無邪気な素直さが、かえって涙を誘うのです。
ベジャールのインタビューでは「M」というのは多くの意味があると語っていますね。三島のMでもあると思うし、神秘(mystere)の「M」、死(Mort)の「M」、音楽(Musique)の「M」と。
「三島を人間として作家として心から感嘆している。三島は多くの様相を持っていて、実に多様な小説を書いたといっています。非常にモダンでありながら、日本の伝統文化を守った人でもあった」
言われてみると、本当にそのとおりだ、そういう人だったなあと思われるのです。
黛敏郎は、ベジャールが自由に作曲させてくれたと言っています。能楽のリズムがもとになっているので、西洋音楽と違って難しい。不規則なリズムで拍子がないので、いつ出るか、いつヤアというのか、踊るほうは大変だったと思うと言っています。
後半部分はpartⅡ動画になります。
切腹場面は大人の三島ではなく、学習院の制服を着た子どもの三島なのです。この少年は初めから終わりまで、重要なところで出てきます。
私が切腹と思われる場面で不意に泣けたのは、ただただ子ども姿の三島がかわいそうと思ったからなのでした。三方の前に正座する、それだけで、これから行われることがわかるのです。ぱっと広げた扇で顔を隠す、上から花弁が落ちてくる。それだけですべてが伝わりました。
ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の「愛と死」がピアノの生演奏で流れます。
世界初演 モーリス・ベジャールの「M」 PartⅡ
こうして動画で見返してみると、音楽がいかに物語の感情を伝えるのか、改めて感じます。
このときはカーテンコールにベジャールも黛敏郎も出てきています。