日本のワインの父と言われる川上善兵衛氏の品種改良リストに、マスカットベーリーB種というのがあります。
リストでは、マスカットベーリーA種の初結実は1931年、ベーリーB種は1933年になっています。
親はどちらも、ベーリーとマスカット・ハンブルクなので、兄弟または姉妹と言ってよいですね。
マスカットベーリーA種は、日本の赤ワイン品種で、最も栽培されている品種です。
マスカットベーリーA種に続く、日本固有品種の、ブラッククイーン、ベリーアリカントも川上善兵衛氏の品種改良種。
よく考えると、マスカットベーリーA種は、「MBA」と記す事や、「ベーリーA」と略すことはありますが、どちらも最後のAは付けます。
Aがあれば、Bがあっても不思議ではありませんが、考えたこともありませんでした。
戦後のワインの歴史を記したものを読んでいる時、昭和30年代の状況として、「甘味果実酒の原料のアジロンダック種は減少し、今後は川上氏の新品種のベリーアリカント、ブラッククィーン、マスカットベーリーa、bを、山梨試験場は奨励品種としている」と書かれていました。
マスカットベーリーbに衝撃を受け、川上氏の改良品種のリストを見ると、たしかにマスカットベイリbがありました。さらに、ベリーアリカントもaとbが。
その文献は、各年の葡萄栽培面積も表わしていて、初めてマスカットベーリーが栽培面積に出てくる時、Aのみ出ていて、Bはありません。
親が同じなので、AとBが一緒になって、Aと名乗ることになったか、Bは栽培しづらいので市場に出回らなかったかは、不明です。
この文献を調べるきっかけは、赤の甘口ワインとして、最近良く売れるアジロンダックが、マスカットベーリーA以前、山梨で良く作られていたという言葉を裏付ける過程でした。
たしかに、アジロンダックは昭和20年代、赤ワイン品種として、最も多く栽培されていました。
昭和30年代後半には、栽培実績から無くなっています。
それが、最近はよく売れるようになり、20社近くのワイナリーが作っているので、アジロンダックのワインに冠せられる「幻のワイン」は、幻ではなくなったのですが、「復活のワイン」くらい付けても良いと思います。
栽培実績が無くなったアジロンダックを、ほそぼそ作っていたワイナリーがあるはずなので、次はそのワイナリーを見つけたいと思います。
アジロンと同じく、マスカットベイリBも、復活するとおもしろいですね。