永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(74)

2008年06月10日 | Weblog
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【須磨】の巻  その(4)

 源氏の御弟君の蛍兵部卿宮と三位中将がおいでになりましたので、御直衣をお召しになります。
源氏「位なき人は」
――無位の人は――
と、言って、文様のない直衣を着られます。

 鏡台に寄ってご自分の少し面痩せなさった姿の、かえって清らかな容姿を、あわれとごらんになります。紫の上が、目にいっぱい涙をためてこちらをごらんになっているのは、堪えがたいほど悲しい。
源氏のうた「身はかくてさすらへぬとも君があたりさらぬ鏡の影ははなれじ」
――私の身はこのように流浪しても、あなたのそばに常にある鏡の中の私の影は、決してあなたのそばを離れません――

紫の上「わかれても影だにとまるものならば鏡をみてもなぐさめてまし」
――お別れしましても、せめて鏡の中の影でも残られますれば、鏡をみても慰むでしょうけれど――

 それから麗景殿と花散里にお出かけになり、別れを惜しまれました。

 花散里のうた「月影のやどれる袖はせばくとももとめても見ばやあかぬ光を」
――わづかの愛を戴いている私ですが、お引き留めしてもお見上げしたいあなた様のお姿です――

 源氏は、結局潔白な身の上になって帰ってきましたら、あなたと住むこともありましょう、と、夜がまだ明けない内にお帰りになりました。

 ご帰邸後は、すべての手はずを整えられます。
・時勢におもねらない人々だけを、二条院の留守を預らせると、上下を定め、
・持参する道具は質素なものだけにして、
・衣裳も華美なものは持たない。
・ご領地の荘園や牧場をはじめ、然るべき地所の証券類などを紫の上に、
・紫の上の乳母少納言を家令とともに、留守宅の中心とし、
・源氏のおなさけを受けている中将や中務などの女房には、帰京をまで待つのな  ら、紫の上に仕えること。

 などのことを、仰って
「上下みな参う上らせ給ひて、さるべき物ども、みな品々に従ひてくばらせ給ふ。……」
――上下の者をみなお召しになり、しかるべき形見の品を、それぞれの身分に応じて分配されます。風流な方面はもちろん、このような実務的なことにも万事すぐれていらっしゃる――

尚侍(朧月夜の君)のところへ、無理をしてお便りをされます。

◆時々休みを入れながら続けますので、どうぞよろしく。ではまた。