永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(84)

2008年06月20日 | Weblog
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【須磨】の巻  その(14)

 一方、須磨のお住いでは、月日が経つにつれ、源氏は紫の上の居られない生活がお辛く、かといって紫の上を呼び寄せることは、お咎めの身には考えられないことと思われます。

このようなうたを詠まれます。
「山がつのいほりに焚けるしばしばもこととひこなむ恋ふる里人」
――山里に住む者が、庵に焚いたその柴のように、しばしばわたしを訪ねてください、恋しい故郷の人々よ――

 やがて冬になりまして、雪の降り荒れる季節を迎え、相変わらずの寂しさに源氏も供びとも、何かにつけては京を思い出され、涙をぬぐってお過ごしになっておられます。

 明石の浦は、這っても行ける程のところです。良清はかの明石入道の娘(前出・若紫の巻)を思い出して文を遣りましたが、お返事がありません。

父の入道から
「『きこゆべきことなむ。あからさまに対面もがな』、と言ひけれど……」
――「申し上げたいことがあります。ちょっと面会したいのですが」と、仰るけれど、どうせ不承知を告げられてみじめな姿で帰ることになろうと、しょげて行きません。

 この入道は並はずれて気位が高く、偏屈とも思われておりますが、源氏が侘びしく須磨にお出でになっていらっしゃると聞いて、北の方に
「『……あこの御宿世にて、覚えぬ事のあるなり。いかでかかるついでに、この君に奉らむ』、といふ」
――「あの桐壺の更衣腹の光君が、須磨に来られているそうだ。娘の御幸運のためにこんな意外なことがあるとは。良い居りだ、娘をこの源氏に差し上げよう」と言います――

ではまた。