永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(186)

2008年10月10日 | Weblog
 10/10  186回

【朝顔】の巻】  その(8)

 うっすらと積もった雪を、さし出でた月が照らしてきらきらとたいそう趣深い夜です。女五の宮の所でしばし語らってのち、西の対の朝顔の宮のお邸にお出でになって、源氏は、今夜は大変真面目に、身を入れて責め立てておっしゃいます。

「一言、憎しなども、人づてならで宣はせむを、思ひ絶ゆる節にもせむ。」
――せめて、一言嫌いだとでも直接おっしゃってくだされば、それを諦めのきっかけにいたしましょうものを。――

朝顔の宮は、お心のうちに思います。
「昔われも人も若やかに罪ゆるされたりし世にだに、故宮などの心よせ思したりしを、なほあるまじく、はづかしと思ひ聞えてやみにしを、(……)」
――昔、自分も源氏も歳若く大目に見られていた頃でさえ、亡き父宮などが、源氏に縁づけようと心組まれましたことを、もってのほかの恥ずかしいことと考えて、そのままになってしまったものを、(老いらくの今日、恋など似合わない今、一言の声を出してのお返事をしますのは、まったく気の重いこと、――

 それでも、無下にもお出来になれず、人を通してのお返事は、それなりになさいますので、源氏はいらいらとなさっていらっしゃるうちに、すっかり夜も更けて風も激しくなってきたようです。お心細さも加わって、ちょっとしぐさに格好つけて、涙をお拭きになるなどなさって、(歌)は、
「つれなさをむかしにこりぬ心こそ人のつらきに添へてつらけれ」
――あなたの無情を懲りもしない自分の心が、あなたへの恨めしさに加えて怨めしい――

 侍女達は、源氏をお気の毒に思い、いっそうご返事をお勧めしますと、

朝顔の宮の(歌)
「あらためて何かは見えむ人のうへにかかりと聞きし心がはりを」
――いまさら何でお目にかかりましょう、ほかの女の身の上に聞きましたあなたの心変わりを、今度は自分で知ろうとは思いません――

 源氏はいよいよ仕方なく、宣旨に「まことに世間の物笑いになりそうなことですから、
ゆめゆめ人に洩らさないでくださいまし」とひそひそお話になっています。女房達はああ、もったいない、つれないお仕打ちですこと、などと言い合っています。

◆お邸も荒れ、後見役の居ない姫君に、源氏のような今を時めく後ろ盾があれば、生活が成り立つ。侍女達の生活にもかかっている。

◆見る=関係を承諾する。

◆写真 光源氏  風俗博物館

ではまた。