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【朝顔】の巻】 その(10)
「いといたく若び給へるは、誰が慣はし聞えたるぞ。」
――こんなに聞き分けなくおいでになるのは、一体だれが躾けたのでしょう。――
「『斎院に、はかなしごと聞ゆるや、もし思しひがむる方ある。それはいともて離れたることぞよ。自ら見給ひてむ。(……)うしろまたうはあらじとを、思ひ直し給へ。』など日一日慰め聞こえ給ふ。」
――朝顔の君に私がちょっとしたことを申し上げますのを、もしや誤解しておいでではないですか。それは全くの見当違いのことなんですよ。今に自然と分かることでしょう。(朝顔の君は以前から全く浮いたところのない御気性ですが、何か寂しい折など、色めかしい風にお手紙を差し上げますと、あちらも時折お返事下さいますが、真剣な恋という風でもないものを、いちいちあなたにご相談する必要などあるでしょうか。)後ろめたいことなどないと、そう思って気を取り直してください。」こんな風に源氏は一日かかって言いつくろって、慰めておいででした。――
雪がたくさん降り積もって、松や竹の姿の面白くみえます夕暮れ、源氏のお姿は一段と鮮やかにお見えになります。
「四季折々の中で、人がことに心を惹かれる花や紅葉の盛りよりも、冬の夜の冴えた月に雪の映えて見える空は、この世の外の世界まで思いやられて、趣深いものです」とおっしゃって、御簾を上げさせてご覧になります。
女童(めわらわ)を庭におろして、雪ころがしをおさせになります。
「をかしげなる姿、頭つきども、月に映えて、(……)」
――可愛らしい姿、髪の形などが月の光に照り映えて、(年上の女童が色とりどりの袙を着流して、小さい子はうれしくて走り回り、扇などを落しても夢中で遊んでいる顔がいかにも可愛い。雪の玉を大きく丸めて動かせなくなって困ったり。他の人々も東の縁先に出てご覧になっています。――
源氏は、しみじみと紫の上にお話しになります。
「一年、中宮の御前に雪の山つくられたりし、世に旧りたることなれど、なほめづらしくもはかなき事をしなし給へりしかな。何の折々につけても、口惜しう飽かずもあるかな。」
――ある年のことでした。藤壺中宮のお庭に、雪の山が作られましたが、よく繰り返えされる遊びですが、珍しい工夫がなされていました。何の折々につけても思い出され、お亡くなりになったことが残念で、口惜しくてなりません。――
◆写真:二條院 雪山で遊ぶ女童と源氏たち
ではまた
【朝顔】の巻】 その(10)
「いといたく若び給へるは、誰が慣はし聞えたるぞ。」
――こんなに聞き分けなくおいでになるのは、一体だれが躾けたのでしょう。――
「『斎院に、はかなしごと聞ゆるや、もし思しひがむる方ある。それはいともて離れたることぞよ。自ら見給ひてむ。(……)うしろまたうはあらじとを、思ひ直し給へ。』など日一日慰め聞こえ給ふ。」
――朝顔の君に私がちょっとしたことを申し上げますのを、もしや誤解しておいでではないですか。それは全くの見当違いのことなんですよ。今に自然と分かることでしょう。(朝顔の君は以前から全く浮いたところのない御気性ですが、何か寂しい折など、色めかしい風にお手紙を差し上げますと、あちらも時折お返事下さいますが、真剣な恋という風でもないものを、いちいちあなたにご相談する必要などあるでしょうか。)後ろめたいことなどないと、そう思って気を取り直してください。」こんな風に源氏は一日かかって言いつくろって、慰めておいででした。――
雪がたくさん降り積もって、松や竹の姿の面白くみえます夕暮れ、源氏のお姿は一段と鮮やかにお見えになります。
「四季折々の中で、人がことに心を惹かれる花や紅葉の盛りよりも、冬の夜の冴えた月に雪の映えて見える空は、この世の外の世界まで思いやられて、趣深いものです」とおっしゃって、御簾を上げさせてご覧になります。
女童(めわらわ)を庭におろして、雪ころがしをおさせになります。
「をかしげなる姿、頭つきども、月に映えて、(……)」
――可愛らしい姿、髪の形などが月の光に照り映えて、(年上の女童が色とりどりの袙を着流して、小さい子はうれしくて走り回り、扇などを落しても夢中で遊んでいる顔がいかにも可愛い。雪の玉を大きく丸めて動かせなくなって困ったり。他の人々も東の縁先に出てご覧になっています。――
源氏は、しみじみと紫の上にお話しになります。
「一年、中宮の御前に雪の山つくられたりし、世に旧りたることなれど、なほめづらしくもはかなき事をしなし給へりしかな。何の折々につけても、口惜しう飽かずもあるかな。」
――ある年のことでした。藤壺中宮のお庭に、雪の山が作られましたが、よく繰り返えされる遊びですが、珍しい工夫がなされていました。何の折々につけても思い出され、お亡くなりになったことが残念で、口惜しくてなりません。――
◆写真:二條院 雪山で遊ぶ女童と源氏たち
ではまた