永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(200)

2008年10月24日 | Weblog
10/24  200回 

【乙女(おとめ)】の巻】  その(10)

 内大臣はその夜は、お帰りになるふりをなさって、こっそり一人の女房の許へ忍び寝されて、お部屋をお出になると、ひそひそ話が聞こえます。

女房達がつつき合ってささやくには、
「賢がり給へど、人の親よ。自ずからおれたることこそ出でくべかめれ。子を知るはといふは、虚言なめり。」
――内大臣は賢そうにしておられるけれど、やはり親馬鹿ですね。そのうち困ったことが起こりそうですよ。《子を知る者は親》だという諺は偽りなのでしょう。――

内大臣は内心、あきれたなあ。だから言わないことではない。子供だからと油断していたものだ。実際世の中は面倒なものだ、とお思いになりましたが、何ごともないかのようにお帰りになりました。

 女房達は、「あら、殿が今お帰りになったとは、今までどこに隠れていらしたのでしょう。今でもまだこんな浮気ごとをなさるなんて」「お衣裳の香りは夕霧の君と思っていましたのに、ああ気味が悪い、蔭口をお聞きになったでしょうね。」「やかましい御気性ですから、大変」などと当惑しています。

 内大臣はお帰りの道すがら、
「いと口惜しくあしきことにはあらねど、めづらしげなきあはひに、世人もおもひいふべきこと、大臣の、しひて女御をおし沈め給ふもつらきに、わくらばに、人にまさることもやとこそ思ひつれ、ねたくもあるかな、」
――夕霧と雲井の雁とのことは、特に悪い縁組になるとも思えないまでも、幼馴染みのいとこ同志では、珍しくもないと、世間では評判にもならないだろうし、源氏があのように弘徽殿女御を圧えられたのも悔しく、もしかしたら、今度は雲居の雁が、他の方を抑えて后に立ちはすまいかと思っていたが、あの冠者では残念だ、――

「殿と御仲の、大方には昔も今もいとよくおはしながら、かやうの方にては、いどみ聞こえ給ひし名残も思し出でて、心憂ければ、寝覚めがちにて明し給ふ。」
――源氏と内大臣の御仲は、おおむね睦まじくていらっしゃいますが、このような争いになりますと、昔のお若いころの、公私につけて張り合われたあれこれが尾を引いて、思い出しても心が塞ぎますので、寝覚めがちに夜を明かされました。――

 大宮も事情はご存じである筈と思えばなおのこと、また、女房達の内緒話の様子も思い出されて、憎く、けしからぬと、お心穏やかではなく、
「すこし男男(おお)しくあざやぎたる御心には、しづめ難し。」
――雄々しく一徹で物事をはっきりさせなければすまないご気性では、急き立つお心をなかなか鎮めにくいのでした。――

ではまた。


源氏物語を読んできて(内大臣)

2008年10月24日 | Weblog
◆【乙女の巻】の内大臣(かつての頭中将)
 
 左大臣、後の故太政大臣の長男。正妻は右大臣の四の宮で、弘徽殿女御の父。また柏木(これから登場)と雲井の雁の父。源氏の正妻葵の上は、同腹の妹であることから、源氏とは特に親しい間柄であった。絶対的存在の源氏に対して、青年の頃より、学問や音楽、また恋のライバルであり、その子だくさんを源氏は羨んでいた。政治家としての手腕に秀で、和琴の名手でもある。源氏より4~5歳年上。

読み方、内大臣(ないだいじん・うちのおとど)
    大臣(おとど)