永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(199)

2008年10月23日 | Weblog
10/23  199回 

【乙女(おとめ)】の巻】  その(9)

 内大臣も人の身の上に事よせて、おっしゃりながら、
「女御を、けしうはあらず、何事も人に劣りては生ひ出でずかし、と思ひ給へしかど、思はぬ人におされぬる宿世になむ、世は想いの外なるものと思ひ侍りぬる。(……)」
――弘徽殿女御を娘として、まずこれといって何事も人に負けはとらぬようにお育てしたと思っておりましたのに、以外にも梅壺女御に気圧された不運により、世間とは案外なものと知りました。(せめて今度は雲居の雁でも、なんとか望みどおりにしたいものです。東宮のご元服も間近なので、心ひそかに願っていたのですが、あのように運の強い人(明石の御方)が産んだ、太政大臣の御息女が、またまた后の候補者として後から追い付いてきました。この方(明石の姫君)が入内なさったら、またしても競争する人もいないでしょう。)――

と、嘆息なさると、大宮は、「どうしてそんなことがありましょう。この家から后となる方がお出にならずに終わることなどあるまいと、亡き大臣(夫)も、弘徽殿女御のご入内には万端の御仕度をなさったのですもの、生きていてくださったならば、こんな風に、物事が狂ってしまうこともなかったでしょうに」と、おっしゃって、この件にだけは、源氏の大臣(おとど)を恨めしく思っておいでです。

内大臣は、
「和琴引きよせ給ひて、律の調べのなかなか今めきたるを、さる上手の乱れて掻き弾き給へる、いと面白し。」
――和琴をお側近くに引き寄せられて、律の調子を思い切って当世風にしてお弾きになります。まことに趣ぶかい――

 そこに夕霧がいらっしゃったので、内大臣は、「こちらへ」といって、雲居の雁にお逢いできぬよう、几帳をへだてて、お入れになります。「どうして、そんなにご学問一筋なのでしょう。あまりに才学が御身分を過ぎますのは、感心しないことを、あなたのお父上もご存じの筈ですのに、何か訳がおありでしょうか、あまり引き籠っておいでになるのは、お気の毒でなりません」などと、お話しになり、その夜は皆でお酒を召し上がっているうちに暗くなりましたので、お夜食の湯漬けや果物を召し上がります。

 内大臣は、雲居の雁をあちらのお部屋におやりになって、強いてお二人の間を離し、お琴の音さえも聞かせまいと、隔ておかれますので、大宮にお仕えしている老女房達は「何かいまに、お可哀そうなことがおこりそうな」と囁き合っています。

◆写真:和琴 風俗博物館