09.2/3 287回
【篝火(かがりび)の巻】 その(1)
同じく、晩夏から初秋にかけて。(現在では、六月末から七月にかけて)
この頃、世間の人が噂の種に、「内大臣の今姫君が…」と、何かにつけて言い散らしますのを、源氏がお聞きになって、
「ともあれかくもあれ、人見るまじくて籠り居たらむ女子を、なほざりのかごとにても、さばかりに物めかし出でて、かく人に見せ言ひ伝へらるるこそ、心得ぬことなれ。」
――ともかくも人目に触れず引っこんでいた女子を、何か口実があるにせよ、それほど仰山に扱われて、このように人目にもお示しになって、噂の種にされる内大臣のお気持ちが分かりませんね――
「いと際々しうものし給ふあまりに、深き心をも尋ねずもて出でて、心にもかなはねば、かくはしたなきなるべし。よろづの事もてなしがらにこそ、なだらかなるものなめれ」
――内大臣というお方は、一体に黒白をはっきりと立てるご気性でありすぎて、深くも調べずに連れて来て、気に入らぬとなればこうも冷遇なさる。万事はやり方次第で穏便に済むものなのに――
と、近江の君に対して気の毒がられます。
玉鬘は、近江の君と内大臣のお噂をお聞きになって、それにつけても、なるほどよくぞ自分は内大臣邸に行かないでいたことよ、いくら実の親でも昔からのご気性も存じ上げずお馴れしたなら、恥ずかしいこともあったであろうとお思いになっております。右近も源氏の有難さをことさらに申し上げます。
「にくき御心こそ添ひたれど、さりとて、御心のままにおしたちてなどももてなし給はず、いとど深き御心のみまさり給へば、やうやうなつかしう打ち解け聞こえ給ふ」
――源氏の君には迷惑な恋心がおありですが、それかといって、感情に任せて無理なお振る舞いなどもなさらず、いよいよご親切が勝りますので、玉鬘は源氏に対して、だんだんとなつかしく打ち解けてゆかれるのでした――
秋になりました。
風が涼しげに吹き始めるころ、源氏は恋しさに耐えかねて、たびたび玉鬘のお部屋に行かれては、一日中そこにおいでになり、お琴なども教えていらっしゃいます。
ではまた。
【篝火(かがりび)の巻】 その(1)
同じく、晩夏から初秋にかけて。(現在では、六月末から七月にかけて)
この頃、世間の人が噂の種に、「内大臣の今姫君が…」と、何かにつけて言い散らしますのを、源氏がお聞きになって、
「ともあれかくもあれ、人見るまじくて籠り居たらむ女子を、なほざりのかごとにても、さばかりに物めかし出でて、かく人に見せ言ひ伝へらるるこそ、心得ぬことなれ。」
――ともかくも人目に触れず引っこんでいた女子を、何か口実があるにせよ、それほど仰山に扱われて、このように人目にもお示しになって、噂の種にされる内大臣のお気持ちが分かりませんね――
「いと際々しうものし給ふあまりに、深き心をも尋ねずもて出でて、心にもかなはねば、かくはしたなきなるべし。よろづの事もてなしがらにこそ、なだらかなるものなめれ」
――内大臣というお方は、一体に黒白をはっきりと立てるご気性でありすぎて、深くも調べずに連れて来て、気に入らぬとなればこうも冷遇なさる。万事はやり方次第で穏便に済むものなのに――
と、近江の君に対して気の毒がられます。
玉鬘は、近江の君と内大臣のお噂をお聞きになって、それにつけても、なるほどよくぞ自分は内大臣邸に行かないでいたことよ、いくら実の親でも昔からのご気性も存じ上げずお馴れしたなら、恥ずかしいこともあったであろうとお思いになっております。右近も源氏の有難さをことさらに申し上げます。
「にくき御心こそ添ひたれど、さりとて、御心のままにおしたちてなどももてなし給はず、いとど深き御心のみまさり給へば、やうやうなつかしう打ち解け聞こえ給ふ」
――源氏の君には迷惑な恋心がおありですが、それかといって、感情に任せて無理なお振る舞いなどもなさらず、いよいよご親切が勝りますので、玉鬘は源氏に対して、だんだんとなつかしく打ち解けてゆかれるのでした――
秋になりました。
風が涼しげに吹き始めるころ、源氏は恋しさに耐えかねて、たびたび玉鬘のお部屋に行かれては、一日中そこにおいでになり、お琴なども教えていらっしゃいます。
ではまた。