永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(308)

2009年02月24日 | Weblog
09.2/24   308回

【行幸(みゆき)の巻】  その(6)

 大宮は、

「公事のしげきにや、私の志の深かからぬにや、さしもとぶらひものし侍らず。宣はすべからむことは、何ざまの事にかは。」
――公のご用事が多いのでしょうか、わたくし事としての孝養の志が深くないからでしょうか、そのようにしげしげともこちらに参りません。お話しになりたいと仰せになりますのは、どのようなことでしょうか――

さらに、

「中将のうらめしげに思はれたることも侍るを、初めのことは知らねど、今はけにくく
もてなすにつけて、立ちそめにし名の、取り返さるるものにもあらず、をこがましきやうに、かへりては世人も言ひ漏らすなるを、などものし侍れど、たてたる所昔よりいと解け難き人の本性にて、心得ずなむ見給ふる」
――夕霧が恨めしく思っておいでのこともあるのですが、事の起こりは存知ませんが、憎らしいと思っても今となっては、引き放そうとしましたところで、一度立ってしまった浮名が取り返せるものでもなし、却って世間も馬鹿げた事と噂をするでしょうから、などと言い聞かせるのですが、内大臣は昔から、一旦言いだしましたことは引かぬ性質で、困った事と思っているのですよ――

 折り入っての話を、大宮は夕霧の事と思われていらっしゃるので、少しお笑いになりながら、源氏は、

「いふかひなきにゆるし棄て給ふこともやと聞き侍りて、ここにさへなむかすめ申すやうありしかど、いときびしういさめ給ふ由を見侍りし後、何にさまで言をもまぜ侍りけむと、人わろう悔い思う給へてなむ」
――あの二人のことは、どうにも仕方のないこととして、許してくださるかと、私もそれとなく口を添えたのですが、たいそうきつく夕霧をお扱いになると伺ってからは、なんであれほど口出しをしたことかと、悔やまれまして――

続けて、

「よろづのことにつけて、清めといふこと侍れば、(……)何事につけても末になれば、落ち行くけぢめこそやすく侍るめれ、いとほしう聞き給ふる」
――何事にも「汚れ」には「清め」というものがつきものですから、(このことについても、綺麗さっぱり水に流してくださらぬ筈はあるまいと存じますが、一旦流れた浮き名をきれいにして、より良いご縁組をとお望みでしょうが、こう世間の噂にのぼった浮名というものは、さっぱりと澄むことなど無いのが常です)万事、後になる程、悪く変わっていくのが例ですし、よいお相手もなかなかいらっしゃらないでしょうから、内大臣のご立腹もお気の毒の思われます――

こうおっしゃって、源氏は肝心の話を始められます。

「さるは、かの知り給ふべき人をなむ、思ひまがふること侍りて、不意に尋ね取りて侍るを…」
――実は、内大臣がお世話されます筈の人を、勘違いしまして偶然私が探しだしているのですが――

◆けにくく=気憎く=こ憎らしい。

◆かすめ申す=それとなくほのめかして

ではまた。