09.2/15 299回
【野分(のわき)の巻】 その(10)
それにしましても、玉鬘の姿たかちは何と言ったらよいでしょう、
「いとおかしき色あひつらつきなり。ほうづきなどいふめるやうにふくらかにて、髪のかかれる隙々うつくしう覚ゆ。まみのあまりわららかなるぞ、いとしも品高く見えざりける。その外はつゆ難つくべうもあらず」
――本当に美しい顔や色かたちです。お顔色は、ほうづきのようにふっくらとして、お髪のかかりの間あいだのお肌が、つややかで、ただ、目もとの愛嬌すぎますのが、やや上品に見えないのでした。その他は一点の非となるところはございません――
夕霧は、父の源氏が話される玉鬘を、前々から一度見たいものと思っていましたので、几帳を少し持ち上げてご覧になりますと、そのあたりの物が片付けられていて、よく見通せます。夕霧は、
「かく戯れ給ふ気色のしるきを、あやしのわざや、親子と聞こえながら、かく懐はなれず、もの近かべき程かは、と目とまりぬ」
――明らかに御父の源氏がふざけていらっしゃるので、妙なことよ、親子とは申せ、このようにまるで懐に入れんばかりにしておられますとは。そのような小さい年ごろでもないのに、と目をとめております――
さらに、
「見やつけ給はむと恐ろしけれど、あやしきに心もおどろきて、なほ見れば、柱かくれに少しそばみ給へりつるを、引きよせ給へるに、御髪のなみ寄りて、はらはらとこぼれかかりたる程、女もいとむつかしく苦しと思ひ給へる気色ながら、さすがにいとなごやかなる様して、寄りかかり給へるは、ことと馴れ馴れしきにこそあめれ」
――(のぞき見をしていることを)源氏に気づかれでもしたら恐ろしいと思いながらも、夕霧は思いもよらぬ光景に驚いて、なおもご覧になっていますと、玉鬘が柱の陰に少し横を向いておられるのを、源氏が引き寄せられます。お髪がはらはらとゆらいで、お顔にかかったりして玉鬘も迷惑そうながらも、それでもたおやかにゆったりと源氏に寄りかかっておられるとは、余程馴れ親しんだ御仲であろうか――
ではまた。
【野分(のわき)の巻】 その(10)
それにしましても、玉鬘の姿たかちは何と言ったらよいでしょう、
「いとおかしき色あひつらつきなり。ほうづきなどいふめるやうにふくらかにて、髪のかかれる隙々うつくしう覚ゆ。まみのあまりわららかなるぞ、いとしも品高く見えざりける。その外はつゆ難つくべうもあらず」
――本当に美しい顔や色かたちです。お顔色は、ほうづきのようにふっくらとして、お髪のかかりの間あいだのお肌が、つややかで、ただ、目もとの愛嬌すぎますのが、やや上品に見えないのでした。その他は一点の非となるところはございません――
夕霧は、父の源氏が話される玉鬘を、前々から一度見たいものと思っていましたので、几帳を少し持ち上げてご覧になりますと、そのあたりの物が片付けられていて、よく見通せます。夕霧は、
「かく戯れ給ふ気色のしるきを、あやしのわざや、親子と聞こえながら、かく懐はなれず、もの近かべき程かは、と目とまりぬ」
――明らかに御父の源氏がふざけていらっしゃるので、妙なことよ、親子とは申せ、このようにまるで懐に入れんばかりにしておられますとは。そのような小さい年ごろでもないのに、と目をとめております――
さらに、
「見やつけ給はむと恐ろしけれど、あやしきに心もおどろきて、なほ見れば、柱かくれに少しそばみ給へりつるを、引きよせ給へるに、御髪のなみ寄りて、はらはらとこぼれかかりたる程、女もいとむつかしく苦しと思ひ給へる気色ながら、さすがにいとなごやかなる様して、寄りかかり給へるは、ことと馴れ馴れしきにこそあめれ」
――(のぞき見をしていることを)源氏に気づかれでもしたら恐ろしいと思いながらも、夕霧は思いもよらぬ光景に驚いて、なおもご覧になっていますと、玉鬘が柱の陰に少し横を向いておられるのを、源氏が引き寄せられます。お髪がはらはらとゆらいで、お顔にかかったりして玉鬘も迷惑そうながらも、それでもたおやかにゆったりと源氏に寄りかかっておられるとは、余程馴れ親しんだ御仲であろうか――
ではまた。