永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(307)

2009年02月23日 | Weblog
09.2/23   307回

【行幸(みゆき)の巻】  その(5)

 玉鬘の裳著の腰結(こしゆい)を、是非とも内大臣にお頼みしようと、お伺いをたてましたところ、昨年の暮れより、大宮のお具合が一層悪く、こんな取り込みの際では具合が悪いでしょうとの、お断りのお返事がありました。

 源氏は思います。

「世もいと定めなし、宮も亡せさせ給はば、御服あるべきを、知らず顔にてものし給はむ、罪深きこと多からむ、おはする世に、この事あらはしてむ、と思し取りて、三条の宮に御とぶらひがてら渡り給ふ」
――無情の世の中だ。大宮が亡くなられたら、本来血縁である玉鬘も喪に服すべきであるのに、このまま知らぬ顔をして済ますのは、はなはだ罪深いことだ。いっそ大宮のご存命中に事実を打ち明けてしまおう、と、思いきって三條の宮にお見舞いかたがたいらっしゃいました。――

 大宮は、脇息に寄りかかり大分弱々しくていらっしゃいますが、お話はお出来になります。一通りのご挨拶を終えられて大宮は、

「今は惜しみとむべき程にも侍らず。さべき人々にも立ち後れ、世の末に残りとまれる類を、人の上にて、いと心づきなしと見侍りしかば、出でたちいそぎをなむ、思ひ催され侍るに、この中将の、いとあはれに怪しきまでに思ひ扱ひ、心をさわがい給ふ」
――もう今は死んでも惜しい事はありません。頼みに思う人々にも先立たれ、今までも、年老いて生き残っている例を他人の上に見ては、ひどく不愉快でしたから、後世の準備を急がねばと気になっておりますにつけ、あの夕霧が不思議なほど親切に世話をしてくださるので、こうして生き延びているのです――

 と、ただただお泣きになって、お声のふるえるのも呆け呆けしいのですが、おっしゃる事はなるほどと頷けますので、源氏はまことにお気の毒にお思いになります。あれこれとのお話のついでに、

「内の大臣は、日隔てず参り給ふことしげからむを、かかるついでに対面のあらば、いかにうれしからむ(……)」
――ところで内大臣は、きっと毎日お見舞いにお出でになっておられることと思いまして、ついでにお目にかかれれば嬉しく、(何とかしてお耳に入れたいことがあるのですが…)――

◆心をさわがい給ふ=心をさわがせ給ふ(会話では往々にしてこのように発音する)あれこれ心配する。

ではまた。