09.2/11 295回
【野分(のわき)の巻】 その(6)
まず、花散里の御殿に伺って、夕霧は所々修繕すべきを指図しおいてから、南の源氏の御殿に伺いますと、まだ御格子も上がっておりませんので、昨日の嵐に乱れた庭を眺めておりますうちに、そこはかとなく悲しく涙がでるのでした。
遠くお部屋の中の源氏の声が聞こえます。紫の上の語らいは聞こえませんが、戯れ合うお二人の話声に、何ともいえない中睦ましい様子が忍ばれて、お話の中身は分からないながら、羨ましく思うのでした。
「夕霧が来ているようだね」とおっしゃって、源氏が自ら格子をお上げになり、大宮のご様子を聞かれます。夕霧が「大宮は、たいそう喜ばれました。この頃はちょっとしたことでも涙もろくなられ、お気の毒でございます」と申し上げますと、源氏は、
「今、幾ばくもおはせじ。まめやかに仕うまつり見え奉れ。内の大臣は、こまかにしもあるまじうこそ憂へ給ひしか。人がらあやしうはなやかに、男々しき方によりて、親などの御孝をも、いかめしき様をばたてて、人にも見おどろかさむの心あり、まことにしみて深き所はなき人になむものせられける。(……)」
――もう、長いこともおありなさるまい、ねんごろにお仕えして差し上げなさい。内大臣は実子でありながら、行き届いたことはなさらないと、こぼしておられましたよ。
内大臣という方は、ひどく派手で、男性的な方と言いますか、親孝行の点でも表を立派にすることを重んじ、人を感心させようというお考えで、心底からの親切心がない方ですね。(だが、策略には富んでいて賢く、末世の今日ではもったいない程の才学に優れ、うるさい点があっても人としてこれ程欠点のない方は珍しい)――
などと、おっしゃってから、夕霧を使者として秋好中宮へお見舞いに立たせます。
御見舞いの文には「昨夜の風の音をいかがお聞きになったでしょう。私は暴風に加え、風邪など引いてしまい、辛いのでお見舞いにも伺いかねますので」とあります。
◆写真:夕霧が簀子から、源氏と紫の上の睦まじげな様子を察してしる。
ではまた。