永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(309)

2009年02月25日 | Weblog
 09.2/25   309回

【行幸(みゆき)の巻】  その(7)

源氏はつづけて、

「その折は、さるひがわざとも明かし侍らずありしかば、あながちに事の心を尋ねかへさふ事も侍らで、たださるもののくさの少なきを、かごとにても、なにかは、とおもう給へゆるして、をさをさ睦びも見侍らずして、年月侍りつるを、いかでか聞し召しけむ、内裏に仰せらるるやうなむある」
――その当座、だれも間違いだと教えてくれる者がおりませんでしたので、強いて深い事情を探り出すこともせず、ただ私には子供が少ないので、実子でなくてもよいという気になりまして、特に親しく世話をするということもなく、過ごしてきましたところ、どうしてお聞きつけになったのでしょうか、帝から仰せがございました――

 それと申しますのは、「内侍所(ないしどころ)に尚侍(ないしのかみ)が、欲しい。それには高い家の生まれで、世間の評判も重々しく、暮らしの方も心配なく、さらに世の中の人望のある家の者を昔から選んできた」と内々で私におっしゃいます。公職としての内侍所は、目立たない場所でもありません。本人の人柄によって寵を賜るようなこともありますので、宮仕えをさせる気になりまして、その娘に年齢などを聞きますと、

「かの御たづねあべい事になむありけるを、いかなるべいことぞとも、申しあきらめまほしう侍る。(……)」
――内大臣がお捜しになる筈の姫君でしたので、どうしたらよいかとご相談したいのです。(裳著の腰結のことをお頼みしましたら、大宮のご病気にかこつけて、億劫げに断られましたので、こうして参った次第です。大宮も幸いご病状もよろしいようですから)――

 大宮は、

「いかにいかに侍りけることにか。かしこには、様々にかかる名のりする人を、厭う事無くひろひ集めらるるに、いかなる心にて、かくひき違へかこち聞こえらるらむ。この年頃承りてなりぬるにや」
――それはまあ、どうしたことでしょうか。内大臣のところでは、いろいろ娘だと名乗り出る人を、嫌がりもせず拾い集めて育てているようですが、その姫君は何を間違えて訴え出たのでしょう。前からあなたを親と聞いて、あなたの子になったのでしょうか――

◆ひがわざ=道理にはずれたこと。あやまち。

◆もののくさの少なきを=ものの種(子供)が少ないので

◆御たづねあべい事=御尋ねあるべき事

◆いかなるべいことぞ=いかなるべきことぞ

ではまた。