09.2/18 302回
【野分(のわき)の巻】 その(13)
夕霧は、三條の大宮(御祖母)に参上しますと、静かに勤行をなさっておいでです。
こちらでは、品の良い女房たちが黒染めの尼姿でお仕えになっており、六条院の繁栄をきわめる女房たちの、きらびやかさとは比較になりませんが、此処ではかえって、それなりの風情が感じられるのでした。
内大臣がお出でになって、灯をともして、大宮とお話しになっておりますうちに、大宮が、
「姫君を久しく見奉らぬがあさましきこと」
――雲井の雁に久しくお目にかからないのが、ひどく辛いのですよ――
と、ただただ泣いてばかりいらっしゃる。内大臣は、
「今この頃のほどに参らせむ。心づから物思はしげにて、口惜しうおとろへにてなむ侍める。女子こそ、良く言はば、持ち侍るまじきものなりけれ。とあるにつけても、心のみなむつくされ侍りける」
――そのうちに伺わせましょう。あの娘も自分で招いた苦労ですっかりやつれているようです。女の子というものは、所詮持つものではありませんな。何かにつけて苦労ばかりさせられます――
と、夕霧との事をまだ根に持っている様子で言われますので、大宮はお辛そうで、無理にでも雲井の雁にお会いしたいとはおっしゃれないのでした。
内大臣は、話のついでに、
「いと不調なる女まうけ侍りて、もてわづらひ侍りぬ」
――実は、ひどく不出来な娘を見つけ出しまして、持て余しているのですよ――
と、苦笑いしつつ愚痴を申し上げられますと、大宮は、
「いであやし。女といふ名はして、さがなかるやうやある」
――まあ、妙なことですこと。あなたの娘ともあろう者が、不出来な筈はないでしょう――
「それなむ見ぐるしきことになむ侍る。いかでご覧せさせむ」
――ところが、それが見苦しくて困るのです。いずれ母上にお目にかけましょう――
とおっしゃったとか。
【野分(のわき)の巻】おわり
ではまた。
【野分(のわき)の巻】 その(13)
夕霧は、三條の大宮(御祖母)に参上しますと、静かに勤行をなさっておいでです。
こちらでは、品の良い女房たちが黒染めの尼姿でお仕えになっており、六条院の繁栄をきわめる女房たちの、きらびやかさとは比較になりませんが、此処ではかえって、それなりの風情が感じられるのでした。
内大臣がお出でになって、灯をともして、大宮とお話しになっておりますうちに、大宮が、
「姫君を久しく見奉らぬがあさましきこと」
――雲井の雁に久しくお目にかからないのが、ひどく辛いのですよ――
と、ただただ泣いてばかりいらっしゃる。内大臣は、
「今この頃のほどに参らせむ。心づから物思はしげにて、口惜しうおとろへにてなむ侍める。女子こそ、良く言はば、持ち侍るまじきものなりけれ。とあるにつけても、心のみなむつくされ侍りける」
――そのうちに伺わせましょう。あの娘も自分で招いた苦労ですっかりやつれているようです。女の子というものは、所詮持つものではありませんな。何かにつけて苦労ばかりさせられます――
と、夕霧との事をまだ根に持っている様子で言われますので、大宮はお辛そうで、無理にでも雲井の雁にお会いしたいとはおっしゃれないのでした。
内大臣は、話のついでに、
「いと不調なる女まうけ侍りて、もてわづらひ侍りぬ」
――実は、ひどく不出来な娘を見つけ出しまして、持て余しているのですよ――
と、苦笑いしつつ愚痴を申し上げられますと、大宮は、
「いであやし。女といふ名はして、さがなかるやうやある」
――まあ、妙なことですこと。あなたの娘ともあろう者が、不出来な筈はないでしょう――
「それなむ見ぐるしきことになむ侍る。いかでご覧せさせむ」
――ところが、それが見苦しくて困るのです。いずれ母上にお目にかけましょう――
とおっしゃったとか。
【野分(のわき)の巻】おわり
ではまた。