永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(464)

2009年08月02日 | Weblog
09.8/2   464回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(18)

 どなたも緊張なさって弾いていらっしゃる気配に、夕霧は御簾の内を覗いてみたくてなりません。

「対の上の、見し折りよりも、ねびまさり給へらむ有様ゆかしきに、静心もなし。」
――紫の上を、かつて野分きの折にふと垣間みてしまったあの頃より、きっと歳を加えられてお美しくなられたに違いないと、心が落ち着かない――

 女三宮には、

「今すこしの宿世及ばましかば、わが物にても見奉りてまし、心のいとぬるきぞ悔しきや、院は度々さやうにおもむけて、しりうごとにも宣はせけるを、と、ねたく思へど、すこし心安き方に見え給ふけはひに、あなづり聞こゆとはなけれど、いとしも心は動かざりけり」
――もう少し縁が深かったならば、自分の妻としてお見上げしましたのに、私の鈍感なところが残念だった。朱雀院が何度も私に御意を示されましたのに、また噂にもなりましたのにと、残念に思いますが、女三宮はあの猫の事件のように、少しご注意が足りなくて、軽く見るというほどではありませんが、ひどく心惹かれるという気持ちにはなれません――

「この御方をば、何ごとも思ひ及ぶべき方なく、気遠くて、年ごろ過ぎぬれば、いかでかただ大方に、心よせあるさまをも見え奉らむとばかりの、口惜しく歎かしきなりけり」
――(夕霧は)ただ、継母の紫の上に対しては、遠く隔てられたまま年月が重なってゆくばかりで、何とも近づこう手だてもなく過ぎてしてしまった。どうにかして通り一片でも、自分が好意をお寄せしていることを知っていただけたらと、それだけが残念で嘆かわしいことなのでした――

「あながちに、あるまじくおほけなき心などは、さらにものし給はず、いとよくもてをさめ給へり」
――無理に継母を恋するなどの、大それたお気持ちなどはなく、実にしっかりと、ご自分のお心を抑えておられました――

◆しりうごと=後う言=蔭口、ここでは噂程度の意味に。

ではまた。

源氏物語を読んできて(紫の上の和琴)

2009年08月02日 | Weblog
◆和琴を弾く紫の上 

 樺桜の表着、蘇芳襲の細長

「御髪のたまれるほど、こちたくゆるるかに、おほきさなどよき程に、様体あらまほしく、あたりにほひ満ちたる心地して、花といはば桜にたとへても、なほ物よりすぐれたるけはひことにものし給ふ」
――ご衣裳の上に御髪がゆったりとかかっていて、あたりも輝くような感じで、花ならば桜に例えられましょうが、それでも桜よりもご立派でお美しい――

風俗博物館

源氏物語を読んできて(明石御方)

2009年08月02日 | Weblog
◆琵琶を弾く明石の御方  
 
柳襲の表着と細長、羅の裳

「かかる御あたりに、明石は気圧さるべきを、いとさしもあらず、もてなしなど気色ばみはづかしく、心の底ゆかしきさまして、そこはかとなくあてになまめかしく見ゆ」
――ご立派な方のなかで、引けを取りそうなものながら、決してそうではなく、態度など才気があって謙遜で、心の奥のゆかしさも偲ばれて、何となく上品で優雅でいらっしゃる――

風俗博物館