永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(478)

2009年08月16日 | Weblog
09.8/16   478回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(32)

 さらに柏木は小侍従を責め立てます。

「いであな聞きにく。あまりこちたく物をこそ言ひなし給ふべけれ。世はいと定めなきものを、女御、后もあるやうありて、ものし給ふ類なくやは。ましてその御有様よ、思へばいと類なくめでたけれど、内うちは心やましきことも多かるらむ。」
――これはまたひどい事を。あまりに大げさな言い方をしますね。男女の中はまったく定めなきものですから、女御や后のような御身分の方でも、他の男と逢われるという例が無くはないでしょう。ましてや、女三宮のご様子は、表面はお仕合せな形ながら、内々では思い通りにならぬことが多いでしょう――

それというのもね。

「院の、あまたの御中に、また並びなきやうにならはし聞こえ給ひしに、さしも等しからぬきはの御方々に立ち交じり、めざましげなる事もありぬべくこそ。いとよく聞き侍りや。世の中はいと常なきものを、ひときはに思ひ定めて、はしたなくつききりなる事な宣ひそよ」
――朱雀院が、多くの皇女達の中でも特に大切にしてこられましたのに、あのような身分の低い婦人たちの中にたち交っては、どんなに不愉快なことがおありかと。私はよくよく聞いていますよ。男女の中は本当に分からないものなのですよ。一方的に決めてかかって、私へ取り返しのつかないような不作法な言い方はなさいますな――

 小侍従は、

「人に貶され給へる御有様とて、めでたき方に改め給ふべきにやは侍らむ。これは世の常の御有様にも侍らざめり。ただ『御後見なくて、漂よはしくおはしまさむよりは、親ざまに』とゆづり聞こえ給ひしかば、かたみにさこそ思ひ交はし聞こえさせ給ひためれ。あいなき御貶め言になむ」
――(女三宮が)他の方に負けていらっしゃる御有様だからと申して、今さらもっとご立派な方にお輿入れ(再婚)なさる訳にもいきませんでしょう。六条院との間柄は普通のご夫婦仲とは違うようです。朱雀院がただ「後ろ楯がなくて身が定まらないよりは、親としてお世話いただきたい」とお譲りになったので、宮も源氏も、そのように思っていらっしゃるようですよ。あなた様のおっしゃることは、ほんとうにつまらない憎まれ口というものですよ――

 小侍従は終いには怒りだしてしまいました。

◆こちたし=言痛し=うるさい、わずらわしい。

◆はしたなく=端たなく=中途半端な

◆つききりなる事=突き切りなること=すげなく言い放つさま

ではまた。