永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(470)

2009年08月08日 | Weblog
09.8/8   470回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(24)

源氏はまだまだ続けて、

「心ゆるびなくはづかしくて、われも人もうちたゆみ、朝夕の睦びを交はさむには、いとつつましき所のありしかば、うちとけては見貶さるる事やなど、あまり繕ひし程に、やがて隔たりし中ぞかし」
――御息所と対していますと、油断もできず気が張って、お互いに睦み合って暮らすには具合が悪かったのでしょう。調子にのって気を許せば、見貶されはすまいかと思っているうちに、疎遠になってしまった仲なのでした――

「いとあるまじき名を立ちて、身のあはあはしくなりぬる歎きを、いみじく思ひしめ給へりしがいとほしく、げに人がらを思ひしも、われ罪ある心地して止みにしなぐさめに、中宮をかく、さるべき御契とはいひながら、取り立てて、世の謗り人のうらみをも知らず、心寄せ奉るを、かの世ながらも見なほされぬらむ。今も昔も、なほざりなる心のすさびに、いとほしく悔しき事も多くなむ」
――私との間に浮名を流して、軽率の誹りを受けた辛さをひどく気に病んでおられたのがお気の毒で、なるほど御息所のお人柄から考えても、罪は私にあると思いまして、隔たったままになりました気休めに、御息所の御子の秋好中宮を宿世というのでしょうか、特にお世話をして、世間の非難や怨みも構わず御後見しているのです。御息所もきっとそれをあの世から見て、機嫌を直してくださるでしょう。今も昔も私のいい加減な気まぐれから、お気の毒なことや、後悔するようなことを多くしてきたものです――

 と、過去に親しくした女方のことを少しずつお話になって、

「内裏の御方の御後見は、何ばかりの程ならずとあなづりそめて、心安きものに思ひしを、なほ心の底見えず、際なく深き所ある人になむ。うはべは人に靡き、おいらかに見えながら、うちとけぬ気色下に籠りて、そこはかとなくはづかしき所こそあれ」
――明石の女御のお世話役(明石の御方)は、大した身分ではないので、はじめから侮って気も遣わずにいましたが、どうしてなかなか心の底を見せない、本当に深みのある方です。うわべは人の言うことを聞いておっとりとしているようでいて、心を許さないところがあって、どことなくこちらが気を遣ってしまうところがありますね――

◆うちたゆみ=打ち弛む=心がゆるむ。気をゆるす。油断する。

◆つつましき所=慎ましきところ=気恥ずかしい。気が引ける。

◆あはあはしく=淡淡し=軽々しい。軽率

◆あなづる=侮る=軽蔑する。見下げる。あなどる。

ではまた。