永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(477)

2009年08月15日 | Weblog
09.8/15   477回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(31)

 柏木はなおも、

「さこそはありけれ。宮にかたじけなく聞こえさせ及びけるさまは、院にも内裏にも聞こし召しけり。『などてかは、さても侍はざらまし』となむ、事のついでには宣はせける。いでや、ただ今少しの御いたはりあらましかば」
――そのとおりだが。女三宮を私が恐れながらお望み申し上げた事は、朱雀院も帝もご存じだったのです。「どうして、婿として柏木が悪かろう」と、何かの折におっしゃったのです。それはもういい、今度あなたがもう一肩骨折ってくれるならばね。――

 小侍従は、

「いと難き御事なりや。(……)この頃こそ、すこしものものしく、御衣の色も深くなり給へれ」
――ほんとうに難しいことを。(宿世というものがあるのでございましょうが、あの頃、六条の院(源氏)が、宮をお望みになられました時、あなたの御身分が張り合えるお身柄だったとお思いですか)この頃でこそ、少し一人前らしくおなりになって、お召物の色も位に相当して上品でいらっしゃいますけれど――

 こうまくし立てられて、柏木は口を差し挟む事もならず、ただ「もう昔のことは言うまい」と、が、

「ただかくあり難きものの隙に、気近き程にて、この心の中に思ふことのはし、すこし聞こえさせつべくたばかり給へ。おほけなき心はすべて、よし見給へ、いと恐ろしければ、思ひ離れて侍り」
――ただ、こういうまたとない六条院(源氏)の御留守中に、宮のお近くに伺って、心の内のほんの片端だけでもお打ち明けできるように計らってください。ゆめゆめ大それた身の程知らずなふるまいは致しませんよ。まあ見ていてください。そんな恐ろしいことは、念頭にありませんから――

 小侍従は、

「これよりおほけなき心は、如何あらむ。いとむくつけき事をも思し寄りけるかな。何しに参りつらむ」
――これ以上の身の程知らずなことがありましょうか。気味の悪いことを思いつかれたこと。わたしはどうしてこちらに参ったのでしょう――

 と、口を尖らせてぶつぶつ言っています。

ではまた。