永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(483)

2009年08月21日 | Weblog
 09.8/21   483回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(37)

 そのまま柏木は、ほんの少しうたた寝をしての夢に、あの手なずけた猫が愛らしげに出てきて、どうしてこんなところに猫が…と思っているうちに目が覚めました。
女三宮は恐ろしくも、また現(うつつ)とも思えない成り行きに、胸の塞がるほど煩悶なさっていらっしゃるのを、柏木は、

「なほかくのがれぬ御宿世の、浅からざりけるとおもほしなせ。自らの心ながらも、うつし心にはあらずなむ覚え侍る」
――(あなたと私は)やはり、避けられぬ御因縁の浅くなかったことと、お諦らめなさいませ。私自身も正気の沙汰とも思えませんことを――

 女三宮は、このようなことが起こってしまった上は、源氏にどうして今までのようにお逢いできようか、と大そう幼げにお泣きになります。柏木はそのご様子に自分の袖も涙にぬれております。
そろそろ夜が明けていくのにも、柏木は出ていく気もせず、いっそのことお逢いしなかったほうが良かったと歎いて、

「いかがはし侍るべき。いみじく憎ませ給へば、また聞こえさせむ事もあり難きを、ただ一言御声を聞かせ給へ」
――どうしたらよいのでしょう。たいそう私をお憎しみのご様子で、二度とお話することも難しいようですね。でもただ一言のお声をお聞かせしてください――

 と、いろいろとくどくど申しあげますが、女三宮は煩わしく辛くて、一言もおっしゃってくださらないので、柏木は、

「果て果てはむくつけくこそなり侍りぬれ。またかかるやうはあらじ」
――こうまで何もおっしゃってくださらないとは不気味ですこと。こんなひどいご態度がありましょうか――

 と、怨みがましく、くどくどと申し上げます。

◆猫の夢=当時、猫の夢は妊娠の前兆という俗信がありました。

ではまた。