永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(474)

2009年08月12日 | Weblog
09.8/12   474回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(28)

 明石の女御も二条院にお出でになって、源氏とご一緒に看病なさいます。紫の上が、

「ただにもおはしまさで、物怪などいと恐ろしきを、早く参り給ひね」
――(女御様は)普通のおからではなく、ご懐妊の御身体でいらっしゃるのですから、物怪など憑いてはいけません。はやく宮中へお帰りください――

 と、苦しそうなご様子の中でおっしゃる。また、明石の女御の御子たちの可愛らしいお姿をご覧になって、大そうお泣きになり、

「おとなび給はむをえ見奉らずなりなむ事。忘れ給ひなむかし」
――若宮がご成人になったお姿を拝見できなくなるなんて。私のことなど忘れておしまいになるでしょうね――

 とおっしゃると、明石の女御は悲しみに涙がとめどなく流れるのでした。

 お側におられた源氏は、

「ゆゆしく、かくな思しそ。さりともけしうはものし給はじ。心によりなむ、人はともかくもある。」
――縁起でもない、そんなことお考えなさるな。ご病気といっても大したことはありますまい。気の持ちようで人は何とでもなるものですよ――

 源氏は神仏への願文の中に、紫の上の罪障が軽いこと(ご性質の穏やかで良き人)などを記されて奉られます。御修法の阿闇梨(あざり)たちや、夜を詰めて祈祷する僧たちも、源氏のこの狼狽ぶりがお気の毒で、いっそう心を引き立ててお祈り申し上げます。


 五、六日少しご気分が良いと思うとまた重体になられる、という具合がいつまでも続き、一体どういうご病気なのか、治ることがあるのだろうかと、源氏をはじめ、人々のご心配は尽きないのでした。

さて、

「まことや、衛門の督は中納言になりにきかし。今の御世には、いと親しく思されて、いと時の人なり。」
――それはそうと、あの衛門の督の柏木は中納言に昇進されておりました。今の帝は柏木をたいそうご信任になっておられ、今まさに時勢にのっていらっしゃる。――

◆阿闇梨(あざり/あじゃり)=梵語の音訳。「手本」とか「規範の師」の意味。天台宗・真言宗で、僧職の一つ。

ではまた。