永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(475)

2009年08月13日 | Weblog
09.8/13   475回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(29)

 柏木中納言は、ご声望が高まるにつけても、女三宮への恋慕が思うように遂げられないことに堪えかねて、

「この宮の御姉の二の宮をなむ得たてまつりてける。下の更衣腹におはしましければ、心やすき方交りて、思ひ聞こえ給へり。人柄も、なべての人に思ひなずらふれば、けはひこやなくおはすれど、もとよりしみにし方こそなほ深かりけれ、なぐさめ難き姨捨にて、人目に咎めらるまじきばかりに、もてなし聞こえ給へり」
――女三宮の御姉君の二の宮(落葉の宮ともいう)を御降嫁願って、正妻に頂いたのでした。落葉の宮という方の御母は、身分の低い更衣でいらっしゃるので、柏木にはこの宮を、多少軽んずるところがありました。落葉の宮ご自身は、普通の女に比べれば優れていらっしゃるのでしょうが、前から思い込んでおられる女三宮への思いが深いので、どうしても心は慰められず、人に怪しまれない程度には、落葉の宮を扱っていらっしゃる――

 柏木の相談に付きあわされている小侍従という人は、女三宮の乳母の娘です。この乳母の姉が柏木の乳母でしたので、柏木は早くから女三宮の御幼少の様子をお聞きになっておりました。大そう可愛らしく、御父帝の朱雀院から、女宮の中でも一番大切にご養育されておいでになったことなど、聞いていましたので、柏木の恋は、もうその頃から始まっていたのでした。

「かくて院も離れおはします程、人目少なくしめやかならむをおしはかりて、小侍従を迎へ取りつつ、」
――紫の上へのご看病で、源氏を始め、みな二条院の方へ行かれていますので、六条院には人も少なく静かであろうと想像して、柏木は小侍従を呼んで――

 熱心に訴えます。

「昔より、かく命も堪ふまじく思ふ事を、かかる親しきよすがありて、御有様を聞き伝へ、堪へぬ心の程をも聞こし召させてたのもしきに、さらにそのしるしのなければ、いみじくなむつらき」
――昔から、こうして私の命も縮む程、宮を思う恋心を、あなたのような縁者があって、宮のご様子も知り、わたしの堪え難い心の内をもお知らせ出来る頼もしさと思っていましたのに、一向にその甲斐もなく、はなはだ情けない――

 ◆なぐさめ難き姨捨(おばすて)にて=慰められない無味の世界?

ではまた。