2010.1/5 609回
三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(24)
夕霧から、また御文がありました。生憎事情を知らない女房が「夕霧大将から小少将の君へとのことです」と取り次ぎますので、小少将は困りながらも仕方が無く、その
御文を受けとりますと、御息所が、
「いかなる御文か。いでその御文、なほ聞こえ給へ。あいなし。人の御名をよさまに言ひ直す人は難きものなり。底に清う思すとも、しか用ゐる人は少なくこそあらめ。心うつくしきやうに聞こえかよひ給うで、なほありしままならむこそよからめ。あいなきあまえたるさまなるべし」
――どのような御文ですか。(落葉宮に対して)さあその御文にはお返事をお上げなさいませ。お返事をなさらないのは失礼でしょう。一旦立ちました噂を「実は違います」などと言い直してくれる人はいませんからね。あなたは潔白でいらしても、信じてくれる人は少ないでしょう。素直にお返事なさって今迄通りになさるのがよいでしょう。お返事をなさらないのは幼くて我儘というものでしょう――
と、実は御息所としては、ひそかに夕霧が自らお出でになることを待っておられましたのが、そうでもなく御文だけとは、実際はそうではなかった(お二人が契り合わなかった)らしいことに、胸騒ぎをして一気に仰せになります。(ここの解釈は、御息所としては、宮に噂が立った以上は、夕霧に婿としての、きちんとした世間への表明儀式をしてもらいたいと思っている。浮気の相手とされた噂ではたまらない。内親王として疵の少ない方を選ぼうとしている。それには事実婚の証として三夜通ってくること。)
けれども夕霧の御文の中身には、
「あさましき御心の程を、見奉りあらはいてこそ、なかなか心やすくひたぶる心もつき侍りぬべけれ。『せくからにあささぞ見えむ山川のながれての名をつつみはてずは』」
――あまりにも(落葉宮の)情れない御心と分かりましてからは、返ってそれならば、と、私の一途な思いがつのりそうです。(歌)「私を嫌っても、あなたの思慮の浅さが見えるだけです。一度流れた浮名を包みきれない以上は」
そのほかに、くどくどと書かれていましたが、御息所はご気分が悪くなられて、最後まで読むことができません。
◆よさまに=善様に=善いように
ではまた。
三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(24)
夕霧から、また御文がありました。生憎事情を知らない女房が「夕霧大将から小少将の君へとのことです」と取り次ぎますので、小少将は困りながらも仕方が無く、その
御文を受けとりますと、御息所が、
「いかなる御文か。いでその御文、なほ聞こえ給へ。あいなし。人の御名をよさまに言ひ直す人は難きものなり。底に清う思すとも、しか用ゐる人は少なくこそあらめ。心うつくしきやうに聞こえかよひ給うで、なほありしままならむこそよからめ。あいなきあまえたるさまなるべし」
――どのような御文ですか。(落葉宮に対して)さあその御文にはお返事をお上げなさいませ。お返事をなさらないのは失礼でしょう。一旦立ちました噂を「実は違います」などと言い直してくれる人はいませんからね。あなたは潔白でいらしても、信じてくれる人は少ないでしょう。素直にお返事なさって今迄通りになさるのがよいでしょう。お返事をなさらないのは幼くて我儘というものでしょう――
と、実は御息所としては、ひそかに夕霧が自らお出でになることを待っておられましたのが、そうでもなく御文だけとは、実際はそうではなかった(お二人が契り合わなかった)らしいことに、胸騒ぎをして一気に仰せになります。(ここの解釈は、御息所としては、宮に噂が立った以上は、夕霧に婿としての、きちんとした世間への表明儀式をしてもらいたいと思っている。浮気の相手とされた噂ではたまらない。内親王として疵の少ない方を選ぼうとしている。それには事実婚の証として三夜通ってくること。)
けれども夕霧の御文の中身には、
「あさましき御心の程を、見奉りあらはいてこそ、なかなか心やすくひたぶる心もつき侍りぬべけれ。『せくからにあささぞ見えむ山川のながれての名をつつみはてずは』」
――あまりにも(落葉宮の)情れない御心と分かりましてからは、返ってそれならば、と、私の一途な思いがつのりそうです。(歌)「私を嫌っても、あなたの思慮の浅さが見えるだけです。一度流れた浮名を包みきれない以上は」
そのほかに、くどくどと書かれていましたが、御息所はご気分が悪くなられて、最後まで読むことができません。
◆よさまに=善様に=善いように
ではまた。