永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(628)

2010年01月24日 | Weblog
2010.1/24   628回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(43)

 夕霧は帰る道々のあわれ深い空をながめては、十三日の月がまことに華やかに上ってきて、小暗いという意に言われます小倉山の辺りも迷わずに帰って行かれますと、その途中に一条の宮邸(御息所と落葉宮の都の御住い)があるのでした。

「いとどうちあばれて、未申の方のくづれたるを見入るれば、遥々とおろしこめて、人影も見えず、月のみ、遣水の面をあらはにすみなしたるに、大納言ここにて遊びなどし給うし折々を、思い出で給ふ」
――(一條の宮邸は)以前より一層荒れていて、未申(ひつじさる=西南)の垣の崩れた所から覗いて見ますと、見渡すかぎり格子を下ろして、人の気配も見えません。月ばかりが遣水の面をくっきりと示して、澄んだ光を投げていますのをご覧になって、亡き大納言(柏木)がここで管弦のお遊びなどを催された折々のことを思い出されるのでした――

(歌)「見し人のかげすみはてぬ池水にひとりやどもる秋の夜の月」
――柏木はすでに世を去ってしまったのに、秋の夜の月だけは池の面に影を映して、この邸を守っている――

 と一人口ずさんでお帰りになりました。ご自邸の三條邸にいらしても、月を眺めてはため息をおつきになって、心は空に漂っておいでのようで、侍女たちが、

「『さも見ぐるしう、あらざりし御癖かな』と、御達もにくみあへり」
――「なんと見苦しいこと。今までに無かった御癖(浮気心)がついたことですこと」と年増の女房達も悪口を言い合っています――

「上はまめやかに心憂く」
――(雲井の雁は)心底恨めしく――

 お心の内で、

「あくがれたちぬる御心なめり、もとよりさる方にならひ給へる、六条の院の人々を、ともすればめでたき例にひき出でつつ、心づきなくあいだちなきものに思ひ給へる、わりなしや」
――(夕霧は)まったく浮かれきったお心のようですこと。もともとそうした方(源氏)を守って暮らしてこられた二条院の婦人方の仲睦まじいことを、さも立派なお手本のようにおっしゃって、私を気に入らない無愛想な女だと思っておいでになるのは、あまりと言えばあまりにひどいこと――

◆うちあばれて=うち(接頭語)あばれて(荒れて)

◆御達(ごたち)=年増の女房たち

◆あいだちなきもの=あいだちなし=無愛想、遠慮が無い。語源に「愛立ち無し」「間(あはひ)立ち無し」の2説があるが確定的ではない。

◆写真:十三夜の月明かり