2010.1/28 632回
三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(47)
夕霧が「御息所の四十九日の忌中、大和守が一人でお世話しておりました」と申し上げますと、源氏は、
「院よりもとぶらはせ給ふらむ。かの御子いかに歎き給ふらむ。……、かの御子こそは、ここにものし給ふ入道の宮よりさしつぎには、らうたうし給ひけれ。人ざまもよくおはすべし」
――朱雀院からもお見舞いがあるでしょう。あの落葉宮はどんなに悲しんでおられることか。その落葉宮こそ、ここにおられる入道宮(女三宮)の次に可愛がっておられたのだからね。その落葉宮とおっしゃる御方のご様子も優れていらっしゃるのだろうね――
夕霧は、
「御心はいかがものし給ふらむ。御息所は、こともなかりし人のけはひ心ばせになむ。親しううちとけ給はざりしかど、はかなき事のついでに、自ら人の用意はあらはなるものになむ侍る」
――(落葉宮の)お気立てがいかがでいらっしゃるかは存じませんが、御母君の御息所はご様子もご性格も一点の非もない方でいらっしゃいました。私には親しくお接しになりませんでしたが、ちょっとした折に、自然と人の気風は分かるものでございます――
と申し上げて、
「宮の御事もかけず、いとつれなし」
――落葉宮の事には触れず、知らぬふりをなさっています――
源氏は、
「かばかりのすくよか心に、思ひそめてむこと、いさめむにかなはじ、用ゐざらむものから、われさかしに言出でむもあいなし」
――(夕霧が)これほど真面目な気持ちで思いこんでいるのを諌めても仕方があるまい。聞き入れぬと分かっていて尤もらしく意見するのも詰まらない――
と、お考えになって、そのまま口をつぐんでしまわれたのでした。
夕霧はその後の御法事も万端整えてさしあげましたこともあって、噂は自然に広まり、致仕大臣(柏木の父で落葉宮の義父)も聞きつけられて、
「然やはあるべきなど、女方の心浅きやうに、思しなすぞ理なきや」
――(夕霧が)そのようなお世話をする筈がない、きっと女方(落葉宮)の方が、お心が浅いからだと、思い取られるとは、宮にはお気の毒なことですこと――
ではまた。
三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(47)
夕霧が「御息所の四十九日の忌中、大和守が一人でお世話しておりました」と申し上げますと、源氏は、
「院よりもとぶらはせ給ふらむ。かの御子いかに歎き給ふらむ。……、かの御子こそは、ここにものし給ふ入道の宮よりさしつぎには、らうたうし給ひけれ。人ざまもよくおはすべし」
――朱雀院からもお見舞いがあるでしょう。あの落葉宮はどんなに悲しんでおられることか。その落葉宮こそ、ここにおられる入道宮(女三宮)の次に可愛がっておられたのだからね。その落葉宮とおっしゃる御方のご様子も優れていらっしゃるのだろうね――
夕霧は、
「御心はいかがものし給ふらむ。御息所は、こともなかりし人のけはひ心ばせになむ。親しううちとけ給はざりしかど、はかなき事のついでに、自ら人の用意はあらはなるものになむ侍る」
――(落葉宮の)お気立てがいかがでいらっしゃるかは存じませんが、御母君の御息所はご様子もご性格も一点の非もない方でいらっしゃいました。私には親しくお接しになりませんでしたが、ちょっとした折に、自然と人の気風は分かるものでございます――
と申し上げて、
「宮の御事もかけず、いとつれなし」
――落葉宮の事には触れず、知らぬふりをなさっています――
源氏は、
「かばかりのすくよか心に、思ひそめてむこと、いさめむにかなはじ、用ゐざらむものから、われさかしに言出でむもあいなし」
――(夕霧が)これほど真面目な気持ちで思いこんでいるのを諌めても仕方があるまい。聞き入れぬと分かっていて尤もらしく意見するのも詰まらない――
と、お考えになって、そのまま口をつぐんでしまわれたのでした。
夕霧はその後の御法事も万端整えてさしあげましたこともあって、噂は自然に広まり、致仕大臣(柏木の父で落葉宮の義父)も聞きつけられて、
「然やはあるべきなど、女方の心浅きやうに、思しなすぞ理なきや」
――(夕霧が)そのようなお世話をする筈がない、きっと女方(落葉宮)の方が、お心が浅いからだと、思い取られるとは、宮にはお気の毒なことですこと――
ではまた。