永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(621)

2010年01月17日 | Weblog
2010.1/17   621回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(36)

 侍女は、

「唯今は、亡き人と異ならぬ御有様にてなむ。渡らせ給へるよしは、聞こえさせ侍りぬ」
――ただ今は、宮様はまるで死人と同じようでいらっしゃいます。ご来訪の御主旨は
お取り次ぎいたしました――

 と申し上げます。そのような中で侍女たちも泣き咽んでおりますので、夕霧は、

「(……)いかにしてかくにはかにと、その御有様なむゆかしき」
――(お慰めの言葉もありませんが、宮のお心が静まられてから伺いましょう)でも、どうしてこんなに急に亡くなられたのかと、その事情をお聞きしたいのです――

 とおっしゃいます。侍女は、露わではありませんが、御息所が歎いておられた御様子を少しずつ申し上げて、さらに、

「かこち聞こえさするさまになむなり侍りぬべき。今日はいとど乱りがはしき心地どもの惑ひに、聞こえさせ違ふる事どもも侍りなむ。(……)」
――(これ以上のことは)あなた様に愚痴を申し上げるようになるかも知れません。今日はいつもより皆気を取り乱しておりますので、間違ったことを申し上げるかも知れません。(宮様が落ち着かれた頃にお話申し上げ、お返事も頂きましょう)――

 と言った切り、侍女たちも途方に暮れている様子です。それなのに夕霧はなおも、

「げにこそ闇に惑へる心地すれ。なほ聞こえなぐさめ給うて、いささかの御返りもあらばなむ」
――まことに私も闇に迷った心地です。ぜひとも又お取り成しくださって、一言のお返事でも伺えましたら――

 と、おっしゃって、いつまでも立ち去りかねていらっしゃる。けれども、それではあまりにもご身分柄軽々しくもあり、あたりに人の出入りも多いので体裁も悪く、ともかくもお帰りになることにしました。

ではまた。