永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(616)

2010年01月12日 | Weblog
2010.1/12   616回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(31)

 夕霧はすぐにでも小野へ赴こうとされますが、あの落葉宮は快く逢ってはくださらないであろうし、たとえ、たまさかにお許しがあっても、今日は坎日(かんにち)で、先々悪いことが起きるかも知れない、と、律儀にお思いになって、先ずは、御息所へお返事をお書きになります。

「いとめづらしき御文を、方々うれしう見給ふるに、この御咎めをなむ。いかに聞し召したる事にか。(歌)『秋の野の草のしげみは分けしかどかりねの枕むすびやはせし』あきらめ聞こえさするもあやなけれど、よべの罪はひたやごもりにや」
――まことに珍しいお手紙をいただきまして、いろいろな意味で嬉しく拝見いたしましたが、あのお咎めが気にかかります。どのようにお聞きになったのでしょう。(歌)「お邸をお訪ねはいたしましたが、落葉宮と仮寝の枕を交わしたりしたでしょうか」弁明いたしますのも変ですが、昨夜の罪はそれほどの咎でしょうか(訳には諸説あり)――

 と、御息所に当ててお書きになり、また別に落葉宮には細々としたためて、いつぞやの大輔をお呼びになって、

「よべより六条の院に侍ひて、ただ今なむ罷でつると言へ」
――昨夜から(私は)六条の院に伺候しておりまして、只今やっと退出して来ました、と申し上げよ――

 と、仰せになって、あちらへ申し上げることを、ひそひそとお言い付けになります。

 さて、
小野の山荘の御息所は、

「よべもつれなく見え給ひし御気色を、忍びあへで、後の聞こえをもつつみあへず、うらみ聞こえ給ひしを、その御返りだに見えず、今日の暮れはてぬるを、いかばかりの御心にかはと、もて離れて、あさましう心も砕けて、よろしかりつる御心地、またいといたうなやみ給ふ」
――昨夜も夕霧から音沙汰の無かったことが我慢できませんで、後々の世の噂をお考えになる余裕もなくて、恨みのお手紙を差し上げましたのに、そのお返事さえ来ず、今日も暮れてしまいましたのを、一体、夕霧はどのようなお気持なのかと、ますます意気消沈なさって、少し快方に向かわれていましたご病状が、またひどく悪くなられたのでした――

◆坎日(かんにち)=陰陽道で諸事慎むべき凶であるとして、外出などを控える日。

◆ひたやごもり=直屋籠り=ひた(接頭語)、ひたすら家に引きこもっている。転じて、昨夜の不参の咎はそれほどの(謹慎)のことでしょうか。

ではまた。