永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(617)

2010年01月13日 | Weblog
2010.1/13   617回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(32)

 落葉宮は、夕霧のご態度には特にお恨みする気持ちはなく、思いがけず姿を見られたことだけを残念に思うばかりで、御息所がこれほど深刻にお悩みなのが、ひどく恥ずかしくていらっしゃる。御息所はそのような落葉宮がただただお気の毒で、

「今更にむつかしき事をば聞こえじと思へど、なほ御宿世とはいひながら、思はずに心幼くて、人のもどきを追ひ給ふべき事を、取り返すべき事にはあらねど、今よりはなほさる心し給へ」
――今更厭なことは申すまいと思いますが、やはり何事も運命とは言え、あなたは案外思慮が浅く、人から非難されそうなことがおありですよ。今更取り返せることでもありませんが、今後はやはりご注意なさいませ――

「数ならぬ身ながらも、よろづにはぐくみ聞こえつるを、今は何事をも思し知り、世の中のとざまかうざまの有様をも、思したどりぬべき程に、見奉りおきつる事と、そなたざまは後安くこそ見奉つれ、……今しばしの命もとどめまほしうなむ」
――私はつまらぬ身ながらも、何かと内親王であるあなたをお世話して参りましたが、今ではあなたも何事にも分別され、世間のいろいろな事情も判断できるようになられたと思って安心していましたのに。……心配で、私はもう少し生きていたい気持ちです――

 さらに続けて、

「ただ人だに、すこしよろしくなりぬる女の、人二人と見る例は、心憂くあはつけきわざなるを、ましてかかる御身には、さばかりおぼろげにて、人の近づき聞こゆべきにもあらぬを、」
――臣下の身でもそれなりの女が二人の夫を持つことは、厭な浮いたことですのに、まして内親王の御身では、あのようにいい加減な事で男がお近づきすることなど出来ない筈ですのに――

「思ひの外に心にもつかぬ御有様と、年頃も見奉りなやみしかど、さるべき御宿世にこそは」
――(柏木との御縁談の時)私は心外で気に入らぬ事だったと、長年心を痛めていましたが、それも運命というものでしょうか――

 御息所は、まだお話を続けられて……

◆もどき=非難

◆とざまかうざま=あれやこれや

◆あはつけきわざ=あはつけき(軽々しい)、わざ=業・態(おこない、動作)

ではまた。