この前の日曜日、毎日新聞の書評欄を開くと、傘寿を迎えた山尾幸久氏の最新刊「古代の近江 史的研究」の紹介文が顔写真入りで掲載されていた。七年前、脳梗塞を発症して、後遺症でつっかえながらしか話せない状態だったと記されていた。すると、NHKのシリーズ「日本と朝鮮半島2000年」(2009~2010放映)に出た直後に倒れたことになる。
氏の本は三十年ほど前、「日本国家の形成」(岩波新書)を読んだだけ。「たぶんこれが最後。これだけのものを書いて終われるのは幸せ」とする新刊ならぜひ読みたい。
この本の内容紹介によると、六世紀初めに即位したとされる継体の出自について新説を提起した。古事記で、父母ともに記載がないのは継体だけ。近江の高嶋郡に父親の支配地があり、そこに越前から女を迎えて継体が生まれたと書かれているが、父親の本拠地がどこだったのか本格的に論じられていなかった。この地域の玉作り集団を代表する物部氏が継体の父方の祖先で、大和王権は継体を婿として迎え入れることによってその勢力基盤を吸収合併したと考えた。
物部氏はイワレヒコより先に飛鳥に入った天孫系豪族とされているが、謎の多い豪族。記紀編さん時、不比等の上司の左大臣が物部の子孫である石上氏だったので、彼の顔を立てたという、うがった説もある。
ついでに、古代史関係で興味深そうな最近の本をいくつか掲載する。
「邪馬台国の全貌」(橋本彰・文芸社)、「神話で読みとく古代日本」(松本直樹・ちくま新書)、「風土記の世界」(岩波新書)
歴史物以外でおもしろそうなもの。「言語学の考え方」(黒田龍之助・中公新書)、「翻訳できない世界のことば」(創元社)、「図書館超活用術」(朝日新聞社)、「造形思考」(パウルクレー・ちくま学芸文庫)、「安全保障を問いなおす」(添谷芳秀・NHKブックス)、「数は科学の言葉」(ダンツィク・ちくま学芸文庫)、「おおかみと6匹の子ヒツジ」(多数あり)、「共同幻想論の巻末解説」(角川ソフィア文庫)
なお、購入済みの「風土記の世界」を含めまだ一冊も読んでいないので、ほんとうにおもしろいかどうかはわからない。(2016.8.2)