2022/3/30 常念岳東尾根
闇にゲートが浮かぶ。
この先、様々な出来事があるだろう。
灯りをともして、ゲートを後にする。
常念岳は安曇野に居を構えた中学校の友人がイチ押しの山だ。
家から見える山姿が実に良いらしい。
同窓会でその話を聞き、一度は行かねばならない山の一つだった。
舗装路をしばらく歩いて、東尾根の取り付き。
鉄塔巡視路となっており、しばらく歩いやすい道が続く。
高架鉄塔の下をくぐって、笹原の踏み跡を行く。
明瞭な踏み跡で不安はない。
残雪とともに藪が濃くなってくると道は隠されるものの目印と先行のトレースが先を導いてくれる。
時に膝まで踏み抜くこともしばしばだが、雪の締まった3月にトレースのある登行は気が楽だ。
反面、泊装備の重荷に体が悲鳴を上げ始める。
予定では尾根上部2100mで幕を張り、明日の登頂を目指す計画。
しかし、明日の天気は下り坂。
しからばと、1900mに泊装備をデポし本日登頂にシフトチェンジ。
軽荷となってから登行は捗り、森林限界。
前常念が美しい。
晴天、微風。トレースは明瞭。
時に股下まで踏み抜くこともあるのだが、腰深までハマっている先行のトレースを見るにつけ、
心の中で「ありがとう」と唱えてその穴は避けて歩く。
前常念への登りでは重荷登行の疲労も影響してか息が切れ始める。
こういう時は、アレだ。
「電池切れにならないように行く」作戦だ。
端から見るとバテているように見えるのだけれど、「問題ない」程度にバテているだけなので大丈夫です。
的なアレです。
まぁ、どちらかというとバテてるんですけどね(汗)
前常念まで岩場が二か所。
右から巻くように通過する。
一か所、急斜面トラバースからの直上でピッケルを使う。
ようやくたどり着いた前常念から常念岳はまだまだ遠く見えるが、これまでの登りに比べたら傾斜は緩い。
それ以上に奥に広がる景色は素晴らしく、ビクトリーロードといえよう。
「これが北アルプスです」
山頂からの景観は雄弁に語っていた。
自分の足で、一歩づつ。
信じ続けた結果。
山頂を後に下山は登りと反比例して早い。
こうなると、下界の様々な誘惑が脳裏に過る。
ということで、泊装備を回収して下山。
途中、闇につかまりヘッドライトを灯すも、踏み跡を拾えるところまでは高度を下げられたので不安はない。
遠く、安曇野の街の明かりが揺れる。
闇に始まり、闇に終わる山行だった。
加えて、使わなかった無駄な荷を担いだ徒労感は否めない。
それでも一歩一歩の積み重ねは重厚だ。
無限の闇に吞まれぬように。
決めるのは自分だ。
sak