新・本と映像の森 93(文学11・SF24) 星新一「おーい でてこーい」(『世界SF全集28』早川書房)
ショート・シュートのSFです。この「星新一 作品100」の1つで3ページと3行の作品。1969年。478ページ。定価770円。
「おーい でてこーい」は1958年の作品だから原発批判としても早いと思う。
都会からあまりはなれていない、ある村でやしろ(社)が台風で崩れて、その下に隠れていた穴が露出した。
直径1mくらい、深さはわからない。
この穴をめぐる物語。読んだ後で、想像して怖くなります。
最初、ある若者が穴に向かって叫んだ。
「おーい でてこーい」
当然、返事はないので、今度は穴に石を投げこんだ。
学者も含めてすったもんだの末に、ある業者が「やしろを近くに再建する」という条件で、その穴を買い取った。
・・・・・・・・・・・・
その利にさとい業者は、あらゆるゴミの捨て場に穴をしたのだ。不要な書類、動物の死骸、都会の汚物、そして原発の廃棄物・・・・。
穴はあらゆる廃棄物の無尽蔵な捨て場と化した。物語の最後は、こう結ばれる。
「ある日、建築中のビルの高い鉄骨の上で鋲打ち作業を終えた工員が、ひと休みしていた。彼は頭の上で、
「おーい でてこーい」
と叫ぶ声を聞いた。しかし、見上げた空にはなにもなかった。彼は、気のせいかな、と思った。そして、もとの姿勢にもどった時、声のした方角から小さな石ころが彼をかすめて落ちていった。
だが彼は、ますます美しくなってゆく都会のスカイラインをぼんやり眺めていたのでそれには気がつかなかった。」
読み終わって、ものすごく怖いです。原因と結果が時間的と空間的に直結しない現代文明そのものの批判ともいえるでしょうけど。
解説に書かれていろのは、「「おーい でてこーい」に関する伝説。① 穴のアイデアは、タンクタンクローというマンガの主人公から思いついた、という説がある。タンクタンクローの腹の中からは、鉄砲でも戦車でもなんでも出てくる。そこで、反対にタンクローの腹の中には、なんでも入れることができだろうと考えた。(以下略)・・・・」(p474~475)
なんだ?これってドラエモンじゃないの。もしくはドラエモンのルーツの1つか。
タンクタンクローは戦前のマンガ。ネットで解説が検索できます。