雨宮智彦のブログ 2 宇宙・人間・古代・日記 

浜松市の1市民として、宇宙・古代・哲学から人間までを調べ考えるブログです。2020年10月より第Ⅱ期を始めました。

本と映像の森(第3) 17 高杉一郎『征きて還りし兵の記憶』岩波書店、1996年

2021年04月11日 13時54分27秒 | 本と映像の森
本と映像の森(第3) 17 高杉一郎『征きて還りし兵の記憶』岩波書店、1996年


 2月17日発行、307ページ、定価2600円。


 著者高杉一郎さんは編集者・翻訳家、「小説家」と書いてある文献もあるが「体験記」作者であって、フィクションを書いたことはないと思う。


 戦前には編集者でプロレタリア文学者たちとも親交があった。中野重治さんや宮本百合子さんとも。


 徴兵され満州で終戦、シベリアで数年を過ごす。その体験を描いた『極光のかげで』で有名になるが、静岡市の大学で長く教育者として生活を送る。


 戦前からのエスペランティストで、盲目の吟遊詩人エロシェンコの全集を訳したと思う。


 戦前から雑誌編集者だったこと、シベリアへ抑留されたことが機縁でその2つがからまって高杉一郎さんをスターリン批判の位置に立たせることになった。


 高杉さんは満州で自分を徴兵した権力の1945年の崩壊と、自分をシベリアに抑留した権力の1989年の崩壊、2つの崩壊を経験しながら、高杉さんはそのやりたくもない任務を文句も言わず引き受けて、やりぬいた。


 そのため、妻の妹(大森寿恵子さん)の結婚相手である男性からは冷たい態度を取られる。誰かわからない人は、この本を読んでください。


 宮本百合子さんが、その男性とはソ連に対する態度が微妙に違うことは、貴重な証言だと思う。


 高杉さんは言う。


 「この本を書いたのは、誰かを告発するためではない。戦後半世紀のあいだに心の底に沈殿した記憶を解き放って、いけにえたちの集団的記憶としてのあたらしい歴史のために役立てたいと思うからである。」(p305)


 「誰にとっても生きるのがむずかしかった戦争と抑留、憎悪と復讐、集中営と強制労働の時代から抜け出る道が見つかったわけではない。ぬかるみの道は、これからもなお続くだろう。・・・・・・」(p306)


 高杉一郎さんのことは、宮本百合子さんとのことや、静岡市でのことなど、あまりに興味のある話題がありすぎて、またいつか書くつもりです。