こんにちは。今更ですが検索しても出てこないということは、急性骨髄性白血病の説明記事を僕は書いていなかったのですね。ビックリしました。
急性骨髄性白血病に関して僕が初発の患者さんに説明する場合は、次のような内容になります。
この度、Aさんは足にアザができるようになったということで、近くの病院を受診されて、そこの血液検査で異常があって当院に紹介となりました。
外来でも簡単にご説明しましたが、血液の大きな病気の可能性があったため、すぐに入院して検査をさせていただきましたが、結論を申し上げますと「急性骨髄性白血病」と診断しました。
急性骨髄性白血病は「白血球」の赤ちゃんに当たるもの、芽球と言いますが、芽球が増殖し、正常な血液が作れなくなる病気です。
正常な血液というのは酸素を運搬する赤血球、体を細菌やカビなどから守る白血球、血を止める働きをする血小板という3種類があります。
赤血球が減ってくると貧血が起きて、フラフラしたり、少しの動作で息切れしたりすることがあります。
白血球の中でも特に「好中球」が減ってきますと、抵抗力が弱くなり、空気中を漂うカビやお腹の中にいるような腸内細菌にも負けてしまい、生き死にに関わるような感染症を起こしたりします。
血小板が減ってくると出血しやすくなり、今回足にアザができているのはこれが原因だと思われます。
Aさん:間違い無いのでしょうか?急性白血病で間違いないのでしょうか?
残念ですが、急性骨髄性白血病で間違いないと考えます。まず、血液検査の結果を説明いたします。画面を見てください。
白血球が35,000/µl、ヘモグロビン(Hb)というのは赤血球の酸素運搬力を示しますが、Hbが10g/dl、血小板が1.2万/µlと白血球の増加と貧血、血小板減少を認めます。白血球の中身は「芽球」と言われる白血病細胞が75%を占めています。
また、先ほど行いました骨髄の検査でもデータは出ておりませんが、骨髄芽球は80%と増加していました。この芽球はミエロペルオキシダーゼ(MPO)染色に陽性であり、この時点で急性骨髄性白血病と診断しました。また、Auer小体という急性骨髄性白血病に特有の変化も認めています。
(現在、芽球>20%で急性白血病の診断になります)
(修正前の三校ですいません。AMLから下にはいきません。リンパ系マーカーが陽性、骨髄系マーカーが陰性で横に矢印が出ます)
Aさん:治療はどのように行うのでしょうか。
急性骨髄性白血病は全身に病気の細胞が存在します。それゆえ手術などでは取り切ることができず、抗がん剤治療を繰り返していきます。
最初に行う治療を寛解導入療法と言います。この治療は白血病細胞を抗がん剤で殺して、正常な血液細胞の回復を待ちます。骨髄内の見た目が正常になるところを目標にします。大体ですが80%程度の患者さんが「完全寛解」と呼ばれる「見た目正常」の状態に入ります。
Aさん:完全寛解の定義はありますか?
完全寛解は血液(末梢血液)の数値が正常化し、骨髄中の芽球が5%未満になることを言います。その状態を確認した後、基本的には地固め療法というダメ押しの治療を4回繰り返します。
Aさん:基本的にはというのはどういう意味でしょうか?
まず、今の時点ではわかっていませんが、予後良好なグループがいます。申し訳ありませんが、最も予後が良いとされる「急性前骨髄球性白血病(APL)」では無いと考えています。これらは前骨髄球と言われる赤ちゃんから幼稚園くらいまで成長した血液が増えてきますので、見ただけである程度判断できます。次に予後良好と言われる「遺伝子異常」を持ったグループの場合は、地固め療法から治療法が変わります(これも見た目である程度は推測できますが、この時点では治療法が変わらないので、結果が出るまで言いません)。この検査については1週間程度(通常は数日)で帰ってきますので、結果がわかりましたらご説明します。
Aさん:そうすると地固め療法から変わる可能性があるわけですね。
そうですね。他にも治療反応性や遺伝子検査の結果、様々な要素を検討して「造血幹細胞移植」が良いと判断すれば、移植を検討することになります。しかし、まずは最初の治療をうまく乗り越えることが最も重要です(最初の敵が多い時が一番大変です)。
急性骨髄性白血病の寛解導入療法、地固め療法では以下のような有害事象が発生することが予想されます。
まず、病気のせいで正常な血液が作れなくなっていますが、抗がん剤治療によりさらに血液が作れなくなります。
Aさん:それは大変では無いですか!
はい。大変であることをご理解いただけただけでありがたいと思います。まず、この治療は抗がん剤に対して「白血病細胞」が弱く(効きやすい)、「正常な血液細胞」は抗がん剤からの「回復が早い」ことから成立します。最初の抗がん剤治療により白血病細胞は大きなダメージを受け、死んでいきます。そのダメージから回復する前に正常な血液が増えてきます。それにより完全寛解に80%の方が到達します。
しかし、抗がん剤によって正常細胞のダメージもありますので、貧血や血小板減少が進みます。貧血を放置すれば体の臓器に負担をかけ、めまいや動悸、息切れなどの症状が出現します。血小板減少を放置すれば致命的な出血が起きる可能性があります。それを起こさないように、適切なタイミングで輸血を行なっていきます。
また、好中球が減ってくると最近による感染症やカビによる感染が増えてきます。これに対しては抗菌薬や抗真菌薬の予防内服やアイソレーターや無菌室などの無菌管理を行なって対応します。それでも発熱する患者さんが多いので、発熱があればすぐに必要な検査を行い、強い抗菌薬治療を開始します(抗緑膿菌作用のある抗菌薬、カルバペネム系・TAZ/PIPC(ゾシン)・第4世代セフェムなど)。
Aさん:他にはどのようなことが起きるのでしょうか?
他には抗がん剤による副作用として嘔気・嘔吐があります。これは薬で抑えます。テレビドラマのような常に吐いてしまうというレベルではなくて、吐き気があって食欲が落ちるという可能性がありますが、多くの方はそれなりに症状を抑えることができます。
他に抗がん剤は良く増える臓器に影響を与えやすいので、腸粘膜のダメージにより下痢をしたり、髪が抜けたり(脱毛は最初の治療から2週〜3週で始まります)、爪に線が入ったり、口内炎ができたりなどすることがあります。脱毛については永久脱毛ではありません。
Aさん:他の治療法はありますか?また、治療を受けないとどのくらい持ちますか?
まず、治療に関しては今説明しているものが「標準治療」になり、最も多くの方が治療を受け、根拠が最もある治療法になります。これがあまり効かなかった場合は、他の治療法(大量シタラビン療法を含んだ治療、CAG療法などの低用量ダラダラ+G-CSFのプライミングなど)を考えますが、まずはこの治療で完全寛解に入ってやる、必ず入るという強い意志を持って治療に参加していただきたいです。治療を全くしないというのはあまり選択肢に入りませんが、すでに出血傾向がありますので、無治療では脳出血などの致命的な出血を起こしたり、白血病細胞が増えて重要臓器に不具合を起こしたりする可能性があります。神様ではないので余命を答えることは難しいのですが、何もしないと1ヶ月は厳しいと思います。
Aさん:わかりました。治療を頑張って受けたいと思います。
これから副作用の強い治療を行なっていくことになります。治療期間は6ヶ月ほどで、治療によって失われた体力を元に戻すまでも3〜6ヶ月ほどかかると思います。ご家族のサポートは非常に重要です。
また、先ほども申し上げましたが、様々な副作用が出ることはありますし、他にも予想もしないことが起きることはあります。何か気になることがあったら、私か看護師などに伝えていただければと思います。
Aさん:よろしくお願いいたします。
こんな感じになると思います。
基本的にはtotal cell killという白血病細胞を全て殺すという考え方になります。
患者さんにはこの時点で説明することはありませんが、僕たちはいくつかの予後指標を見て治療戦略を立てています。
僕は執筆した本には4つの指標を載せていますが、JALSGスコアとELNガイドラインの生存曲線を見ながら、その療法の良いところを撮っている血液学会の予後指標を見る感じでしょうか。
(これは古いですが、少し気にして見ています)
(ELNは遺伝子変異などに着目しています)
(血液学会のやつです)
ただ、最も重要なことは患者さんにとっては0か100かでしかないということです。
僕の担当した患者さんでも「統計的」な判断では厳しい患者さんがいましたが、今でも長期生存されています。再発してないので、このままうまくいくと思っていますが(10年くらい経っていますし)、論文だけ見たら0%と10%の可能性でした。二人とも元気です。
僕は「統計は統計だ」と思っていますし、医療は進歩しています。統計的なデータがあるということは数年前の治療ということになりますし、病気に対する治療法が変わっていないとしても、支持療法が変わっていたりするわけです。より良い治療法ができれば、それだけ何かが良くなるはずです。
統計は統計。目の前の患者さんには全力を尽くす。
(医師が無理だと思っていたら、患者さんだってその影響を受けるでしょう。僕は難しいと本当に思った場合はその説明を必ずしますが、最初から白旗を上げることはまずないです。第一、何人も難しいはずの方々が治ってくださっていますので・・・。治ると思って治療をしなければ、患者さんにも失礼だと思いますし)
僕はそう思っています。
ちなみに急性白血病は特にそうですが、白血病細胞が0になったという判断はかなり難しいです。初発時は白血病細胞が1012個(1兆個:テラ)ある段階から109個(10億個:ギガ)まで低下、地固め療法を行い、PCR法という技術で遺伝子を増幅して調べて引っかからなくなっても106個(100万個:メガ)以下としか言えません。ないとはなかなか言えないのです。だから統計学的なものが非常に重要です。0になる確率はこのくらい、治る確率はこのくらいとしか説明ができないわけです。統計は重要ですが、目の前の患者さんに全てを適応しすぎないことが重要だと思っています。
統計は重要なため、予定の治療を最後までやりきること、間を空けすぎたりしないというのも非常に重要なことです。統計学的なデータがある通りの治療をしないと、そのデータを反映できないからです。担当医はそういう説明もすると思います。
説明を簡単に書きましたが、実際には患者さんを見て説明の仕方は色々変えると思います。ただ、必ずいうであろう「言うべき内容」はこんなところかなと思っています。
この記事を検索して来られた方には、嫌な内容が書いてあるかもしれません。それでも多くの血液内科医は「できるだけ目の前にいる患者さんが治るグループに入る」ように日夜頑張って治療をしていると思います。そういう人たちしか多分来ないと思います。この領域には。
ぜひ、主治医の先生を信じて、治療を継続し、白血病に打ち勝っていただきたいと思います。また、そう祈念しております。
簡単ですが、「僕の急性骨髄性白血病の説明の仕方」を終わります。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
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それでは、また。
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