新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

抗がん剤治療後の妊孕性(子供を産む能力)について

2017-12-20 20:23:17 | 医学系

こんばんは

 

今日は午前中、午後と出張医療教育に精を出しておりました。いつも「聴く人にとって意味がある話を」とは思っておりますが、最近話をしている内容は結構うなづいたり、メモを取る人が多くいるので嬉しい限りです。

 

将来、聞いてくださった方の役に立つのではないかと期待しています。

 

さて、最初に先ほど中外医学社のホームページに行ったのですが、先日の血液学会で売れた本のランキングに僕の本が入っていました。

http://www.chugaiigaku.jp

1位、2位は木崎先生の編集している本ですし、4位は金倉先生の編集している本ですので、その間に入っているのは嬉しい限りだと思っております。また、現場で立ち読みした先生が買ってくださっているということですので、僕は本当に嬉しいです(中外医学社の売上情報は知らなかったので)。

 

次にこのブログに来る方の中に「抗がん剤」「化学療法」+「子供」、「妊娠」で検索している方がいるのに気がつきました。色々ご不安があって調べられているのだろうと思いまして、軽く書いてみようと思います。ただ、他に良い記事がいっぱいありますので、そこへのリンクを貼らせていただきますが・・・。

 

まず、血液疾患には様々な治療がありますが、リンパ腫の標準治療や通常のAMLやALLの治療ではリスクは低いとされています。

しかし、一般的な話ですが、年齢が高くなればなるほど性線機能障害が出る確率は高くなると言われています。

 

僕は血液疾患では探しきれませんでしたが、乳がんでは「30歳未満では大きな影響は受けない」とされている抗がん剤治療が「40歳以上で治療を受けると90%以上で性線機能不全(閉経)する」という記載があるものもあります。

 

ですので、確かにいくつかの論文にあるように上記のような治療(骨髄移植を除く)では、若年者での妊孕性の危険は少ないかもしれません。ただ、若くても0にはなりませんし、年齢が上がれば上がるほどリスクは上がると思います。

 

僕の担当した患者さんでは20代の女性は抗がん剤治療中に妊娠してしまい、堕ろすかどうかの相談をされたことがあります。「一般的に抗がん剤治療中は胎児異常の可能性があるので、妊娠を回避すべきというものがあります」と、お伝えしたところ諦められたということがありました。

(国立がんセンターの一般向け情報ページにも記載があります)

https://ganjoho.jp/public/dia_tre/attention/chemotherapy/side_effect/sexual_dysfunction.html


もちろん、妊娠後半に見つかる場合は胎児への影響は少ないと思うのですけど(やりようはある)、器官形成期などに抗がん剤に暴露されているのは、胎児のリスクが低いとは言えないのです。


逆にリスクが少ないとも言われているAMLの治療でも、40歳くらいの女性では「性線機能障害になる可能性が高く、半分以上と思ってほしい」旨をご説明して治療に入ったことがあります。

 

ですので、一概には言えないのですが、20代であればリスクは比較的低いかもしれませんし、自然に閉経のリスクが出て来る40歳に近づけば性線機能障害で妊孕性が落ちる危険は高くなると言えると思います。

 

時間があって(白血病はあまり時間がないですが、リンパ腫などですぐに治療に入らなくても少しタイミングがずらせるタイプ)、妊孕性の相談などをするのであれば、主治医の先生と婦人科の先生によく相談する必要があると思います。

 

参考資料として

国立がんセンター がん専門相談員向け手引き

http://www.j-sfp.org/ped/dl/teaching_material_20170127.pdf

 

「小児・若年がん長期生存者に対する妊孕性のエビデンスと生殖医療ネットワーク構築に関する研究班」のPDF 

http://www.j-sfp.org/ped/dl/Cancer_treatment_brochure_F.pdf

 
などもご確認いただければと思います。参考になれば幸いです。
 
 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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僕のMALTリンパ腫の説明(2017年度版)

2017-12-20 19:15:07 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

MALTリンパ腫は低悪性度の中でも低悪性度のリンパ腫です。正常なリンパ球より増殖が遅い、固形腫瘍並みの増殖力です(早いか遅いかは考え方次第)。

 

かなりゆっくりで、複数の病変に広がることが少ないため、Stage IやStage IIが多いです。しかし、時々進行期で見つかる患者さんもいます。

 

進行期でも15年生存率は80%くらいで限局期とあまり差はないと言われています。完治と言いにくいのだけが問題ですが、一回治療が効けば長期生存が期待できます。

 

 

有名なものは胃のMALTリンパ腫(WHO 2016改訂ではヘリコバクターピロリ関連リンパ増殖性疾患のような位置付けになっています)ですが、これ以外にも腸(腸粘膜下)、気管(気管粘膜下)など菌などにさらされている場所やシェーグレン症候群・慢性甲状腺炎などの慢性炎症にさらされる場所(甲状腺、唾液腺、涙腺など)は発生することがあります。

 

それでは、まず胃のMALTリンパ腫を説明したいと思います

 


 

Rさんは先日胃カメラを受けられて、その際に異常を指摘されて当院の消化器内科に紹介になりました。消化器内科の先生がそれを生検したところ、MALTリンパ腫という病気であることがわかり、当科に紹介となりました(ちなみに話していてわかりましたが、血液内科と消化器内科で治療とその後の経過観察の仕方が少し違うかもしれません)。

 

MALTリンパ腫は悪性リンパ腫の中では非ホジキンリンパ腫と言われるグループにあたります。この中には低悪性度から中等度、高悪性度と進行速度によって別れていきますが、MALTリンパ腫は低悪性度になります。

 

その中でも低悪性度の中で最も低悪性度のリンパ腫がこれ(MALTリンパ腫)になります。

 

MALTリンパ腫は細菌や自己免疫疾患などの慢性的な刺激によって発生する悪性リンパ腫で、粘膜の下にある最近から身を守るためのリンパ組織(粘膜関連リンパ組織:MALT)から発生する腫瘍です。

 

基本的にはゆっくり進行し、手術などで摘出していた場合で他に病変部がなければ経過観察となります。また、病変部が限定されたものであった場合は「放射線治療」を行うことが一般的です。

 

ただ、胃のMALTリンパ腫はピロリ菌との関連が言われています。そのため、他の場所に病変がなく、ピロリ菌が胃の中にいる場合は除菌が最初の治療になります。ただし、ピロリ菌がいてもMALTリンパ腫にt(11;18)という染色体異常があった場合は、除菌療法は効きません(染色体転座が原因で、ピロリ菌による胃MALTリンパ腫ではないから。除菌療法の治療効果は5%未満とされている)ので放射線治療が適応になります。

 

Rさん:私はピロリ菌が関連したものでしたか?他の部位にあるかどうかというのはどのような検査を行うのですか?

 

まず、Rさんの胃の生検検体からピロリ菌が確認されていますので、ピロリ菌関連と考えています。他の部位にあるかどうかは造影CT(頚部〜骨盤)と骨髄の検査を行います。

(濾胞性リンパ腫まで・・・MALTリンパ腫以外のリンパ腫では概ねPET-CTが良いとされていますが、MALTリンパ腫は増殖が遅すぎるため、造影CTで検査を行うことが推奨されています)

 

それらの検査と並行して、先ほど言いました「染色体異常の確認」などを追加で行いたいと思います。

 

Rさん:検査ばかりで大丈夫でしょうか?

 

基本的にMALTリンパ腫はかなり増殖が遅いので、心配はいりません。このあと治療のところで説明をしますが、ピロリ菌が陽性であった場合は除菌を行います。その間、かなりゆっくり治療効果を待ちます。待つことができるほど、ゆっくりしか増えてきません。

 

このまま治療の説明を行います。

今のところ他の部位にはいない可能性が高いので、ピロリ菌を除菌する治療法の説明をします。

 

まず、I期などのリンパ腫であった場合はピロリ菌の除菌を行います。除菌から3ヶ月後に内視鏡検査と生検を行なって、ピロリ菌がいるかどうか、悪性リンパ腫がどうなっているかを確認します。

 

ピロリ菌もMALTリンパ腫もいなくなっていたら、その時点から経過観察です。

 

ピロリ菌が消えているが、MALTリンパ腫がいる場合。特に増大傾向でなければ、もう3ヶ月経過を見ます。3ヶ月後に再度評価をしますが、改善傾向がなければ放射線治療を行います。

 

ピロリ菌が消えていなくて、リンパ腫も残っていた場合は、症状がなく、大きくなっていなければもう一度違う抗菌薬を使用して除菌します。再評価は同じように3ヶ月後です。

 

症状がある場合などは放射線治療を行います。

 

Rさん:わかりました。では、一通りの検査を行って、他に病変部がなく、染色体検査で異常がなければ除菌を行うということですね。

 

基本的にはその通りです。評価については消化器内科さんと共同して行います。腫瘍細胞が確認されなくなれば(完全寛解)、最初は3〜6ヶ月(5年間はこのペースと言いますが、僕はゆっくりしか増えて来ないので、5年もやりません。患者さんも大変なので。最初に残存した腫瘍が急速に大きくなってくるのを警戒して初期にはこのくらいで行きますが、1〜2年くらいからは半年から1年にしてしまっています)のペースで内視鏡検査を行います。あとはRさんと相談してペースを決めたいです。

 

2つだけ言っておかなくてはいけないことがあります。

MALTリンパ腫は低悪性度のリンパ腫なので、忘れた頃に再発してくることがあります。一般的にいう5年間再発がなければ大丈夫という腫瘍ではないです。そのため、5年経過した後も年に1回は内視鏡検査を受けるようにしていただきます。

 

Rさん:わかりました。もう1つは?

 

胃でもどこでもそうなのですが、MALTリンパ腫からびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に性質が変わることがあります。それは増大傾向になったり、異常に大きいものはそういう傾向があると思います。何れにせよ、DLBCLの要素が捕まった場合は、治療方針はDLBCLのものに準じて行いますので、それだけはご理解頂ければと思います。

 

 僕の非ホジキンリンパ腫の説明の仕方(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:DLBCLを例に)

 

Rさん:わかりました。その場合は宜しく御願い致します。


 

 

こんな感じでしょうか。

一般に進行期のMALTリンパ腫はあまり多くありません。ただ、時々いらっしゃいます。僕はCP(シクロホスファミドとプレドニゾロンの内服)からリツキシマブの維持療法をおこなった患者さんと素直にCHOP+Rで治療をした患者さんがいます。どちらの患者さんも完全寛解になり、無病生存中のはずですが、時折そういうことはあります。

 

(クロラムブシルがないのでCP+Rで行きました)

また、胃のMALTリンパ腫からDLBCLになった患者さんも数名いらっしゃいますが、そういうこともピロリ菌除菌の効果に期待して長期に待っていたりすると生じるのかもしれません(ある患者さんが紹介されてきた時「MALTというにはデカすぎるだろ」と思わず心の中でツッコミを入れました)

 

なお、限局期の若い患者さんで放射線治療の二次発癌を避けるためにリツキシマブ単剤で治療を行うこともあります。

 

少しでも患者さんの役に立てば幸いです。

 

 

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北海道・四国大地震の可能性:地震大国なので準備は必要ですかね

2017-12-20 05:42:39 | 北海道

おはようございます

 

ブログのコメント、ネットサーフィンなどをしているうちに5:40になっておりました。

昨日、年内最後の出張を終え、無事に帰ってまいりました。今日も帯広内で他の部署に出張しますが、歩いて行けますし、他の仕事もできますし。

 

ネットサーフィンをしていたら北海道や四国の巨大地震の可能性に関するニュースが出ていました。

 

 

北海道沖で超巨大地震「切迫している可能性」 地震本部

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171219-00000034-asahi-soci

12/19(火) 11:22配信

 北海道沖の千島海溝沿いで、今後30年以内にマグニチュード(M)8・8以上の「超巨大地震」が発生する確率は最大40%とする見解を、政府の地震調査研究推進本部が19日、発表した。東日本大震災に匹敵する規模の地震が「切迫している可能性が高い」として対策を呼びかけている。

(以下略)


 

最大M8以上の大地震の可能性 四国の活断層「中央構造線」 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171219-00000032-mbsnewsv-soci

12/19(火) 11:58配信

MBSニュース

 政府の地震調査研究推進本部は四国にある国内最大の活断層「中央構造線」について、今後30年以内に大地震を起こす可能性が高い部類に入ると発表しました。

(以下略)


僕は個人としてはあまり地震対策はしていないのですが、子供もできましたし、何かあった時の準備はしないと行けないかなと思ったりしています。

 

関東も含めて30年以内に大地震というところ(可能性があるところ)は多いですよね。犠牲者数の予測がどう見ても少ないような気がするのですが、まぁそこはそこで・・・。

ともかく発生する可能性のあるものに備えておくのは大事だと思います。

 

医師(特に血液内科医)の考え方かもしれませんが、抗がん剤治療などを行うにあたり、起こりそうなことは予測しています。本当に想定外のことが起きることもありますが、感染症(発熱)は起きるだろう・・・いつ起きるか、程度はどの程度か・・・と思って身構えていれば、たいていのことには対処できます

 

まぁ、普通の敗血症性ショックの対応で対処できずに、PMX(エンドトキシン吸着)をしなくてはいけない方もいましたが・・・(汗

これはとんでもない場合のパターンですが、行動パターンの最悪の場合の対処・・・ということです。

 

最悪まで考えてどうするか準備しておくことが大事かなと。そういう意味では個人もそうですし、国も都道府県も準備が必要ですよね。できる範囲が個人では限られていますし、都道府県の限界もあると思いますし、国の限界もあると思いますが・・・。

 

と、医者の考え方で思ってしまいました。

 

 

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